68 野球に恋してるのかも
気づけば4回裏。
スコアは1対0のまま。
蒼はふと小夜の方を見る。
そして、少しだけ不思議そうに聞いた。
「小夜さん」
「なんでそんなに野球詳しいんですか?」
蒼の問いかけに、小夜は少しだけ笑った。
「なんでそんなに野球詳しいのか、って?」
「はい」
蒼が頷く。
小夜は少しだけグラウンドの方を見ながら言った。
「うちのお父さん、元プロ野球選手だったんだ」
蒼は思わず小夜の方を見る。
「え……?」
小夜は肩をすくめた。
「って言っても、スター選手ってわけじゃないよ」
「一軍と二軍を行き来するような選手だったんだけど」
「でもね、小さい頃からよくマリンスタジアムに連れていってもらってた」
蒼は静かに聞いていた。
小夜は続ける。
「お父さんが投げる試合はもちろんだけど、投げない試合もよく見てたし」
「家でも毎日のように野球中継ついてた」
「だから気づいたら、野球のことばっかり覚えてたんだよね」
小夜は少し空を見上げた。
「……もしかしたらさ」
蒼の方を見る。
「私、野球に恋してるのかも」
蒼は一瞬、言葉を失う。
小夜はくすっと笑った。
「変でしょ?」
蒼は小さく首を振る。
「いや……」
「なんか、分かる気がします」
そのとき。
小夜の額から一筋、汗が流れ落ちた。
真夏の太陽がスタンドにも容赦なく照りつけている。
小夜は手の甲で軽く汗を拭いながら言った。
「それにしても……」
「本当に暑いね」
蒼は思わず小夜の方を見る。
額から頬へと流れる汗。
首筋に伝う汗が、陽の光を受けてきらりと光っていた。
蒼の胸が、どくんと鳴る。
(……やばい)
思わず見惚れそうになり、蒼は慌てて視線をグラウンドへ戻した。
「そ、そうっすね」
「暑いっすね」
少しだけぎこちない声だった。
小夜は不思議そうに蒼の顔を見る。
「……?」
「どうしたの?」
蒼は少しだけ視線を逸らしながら答える。
「いや、なんでもないっす」




