66 良いピッチャー
蒼はスタンドの席に腰を下ろした。
グラウンドでは、試合前のアップが続いていた。
それから十分ほど経った頃だった。
「お待たせー」
軽い声が後ろから聞こえる。
蒼が振り向くと、紗夜がスタンドの階段を上がってくるところだった。
蒼は少し笑う。
「小夜さん」
紗夜は蒼の前まで来ると、軽く首を傾げた。
「待った?」
蒼は肩をすくめる。
「さっきですよ」
紗夜は小さく笑った。
「じゃあちょうどいいタイミングだね」
そう言って蒼の隣に腰を下ろす。
グラウンドでは総武学園の選手たちがシートノックを始めていた。
乾いた打球音が球場に響く。
紗夜はグラウンドを見ながら言った。
「今年の総学、いいね」
蒼も視線をグラウンドへ向ける。
「そうですか?」
紗夜は頷く。
「うん」
「特にピッチャーの子」
蒼は小さく笑う。
「さっき後輩に聞きました」
「隅田ですよね?」
紗夜は少し嬉しそうに言う。
「そうそう」
「春から急激によくなったよね」
そしてマウンド付近を見る。
「サウスポーで球速も130後半出るし」
「それにあのチェンジアップ」
「右バッターはかなり打ちづらいと思う」
蒼は感心したように言った。
「小夜さん、本当に高校野球見てますね」
紗夜はくすっと笑う。
「まあね」
蒼はグラウンドを見ながら言った。
「さっきブルペンでピッチング練習見てましたけど」
「木商も苦戦すると思いますよ」
紗夜は楽しそうに頷いた。
「そうだね」
グラウンドではシートノックが続いている。
試合開始まで、もうすぐだった。




