64 始まったばかり
その日の午後。
講義が終わったあと、蒼は研究室の扉をノックした。
「失礼します」
「はーい」
中から優子先生の声が聞こえる。
蒼が扉を開けると、優子先生は机の上の書類を整理していた。
「お、柏木くん」
「どうしたの?」
蒼は少し笑いながら言う。
「海の家の件なんですけど」
「一応、人集まりました」
優子先生は少し驚いた顔をする。
「え、もう?」
「早いね」
蒼は指で数えながら言う。
「俺入れて6人です」
「友達がやるって」
優子先生は嬉しそうに頷いた。
「いいじゃん」
「助かるよ」
そして少し考えるように顎に手を当てる。
「でもね」
蒼が首を傾げる。
「はい?」
優子先生は笑いながら言った。
「もっと増えても全然大丈夫だよ」
蒼は少し驚く。
「え?」
「そんなにですか?」
優子先生は頷く。
「海の家ってさ」
「人多い方が絶対楽しいの」
「学生イベントだからね」
そして軽く肩をすくめる。
「むしろあと何人かいた方が助かるかも」
蒼は少し考える。
「……なるほど」
優子先生はにこっと笑った。
「もし誰か興味ありそうな子いたら誘ってみてよ」
「友達の友達でもいいし」
蒼は頷いた。
「わかりました」
研究室を出たあと。
蒼は廊下を歩きながら、ふと思う。
「……誰か誘うか?」
頭の中に、何人かの顔が浮かんだ。
夏は、まだ始まったばかりだった。




