62 楽しみだね
蒼が「優子先生に言っとくわ」と言ったあと。
千尋は腕を組みながら、にやっと笑った。
「てかさ」
「海ってことはさ」
全員を見る。
「水着じゃん」
その瞬間。
三郎の箸が止まった。
「……あ」
ゆっくり顔を上げる。
「ほんとだ」
千尋が楽しそうに言う。
「でしょ?」
「海の家ってことは海でしょ?」
「つまり水着でしょ?」
三郎は急に姿勢を正した。
「俺、やる気出てきたわ」
太陽が呆れた顔をする。
「さっきからやる気だっただろ」
「いや違う」
三郎は真剣な顔で言う。
「これはモチベーションが違う」
蒼はため息をつく。
「お前ほんと分かりやすいな」
千尋は笑いながら凛の肩をつついた。
「凛、水着どうすんの?」
凛は一瞬きょとんとする。
「え?」
千尋はニヤニヤする。
「海行くんだよ?」
「新しい水着買わないとじゃない?」
凛の顔が少し赤くなる。
「べ、別に普通のでいいよ……」
三郎がすぐ反応する。
「普通ってどんな普通!?」
太陽がすぐツッコむ。
「聞くな」
愛菜はくすっと笑った。
「三郎、落ち着きなさい」
「女子は普通に水着着るだけだから」
三郎は腕を組む。
「いやいやいや」
「海の家だぞ?」
「これは大事件だぞ」
蒼は呆れながら言う。
「何がだよ」
千尋は笑いながら言った。
「蒼くんも楽しみなんじゃない?」
蒼はすぐ言う。
「別に」
三郎がすぐ指差す。
「嘘だ!」
「絶対楽しみだろ!」
蒼はため息をついた。
「お前と一緒にすんな」
凛は少しだけ俯きながら言う。
「……まあでも」
みんなが凛を見る。
凛は小さく笑った。
「海、楽しみだね」
千尋が笑う。
「でしょ!」
三郎も元気よく言った。
「今年の夏、最高になりそうだな!」
食堂のテーブルは、いつものように賑やかな空気に包まれていた。




