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蒼色の恋に。  作者: ひろねる


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61/141

60 変化

グラウンドでは、選手たちの片付けがだいぶ進んでいた。

夕方の光も少しずつ弱まり、スタンドの影が長く伸びている。

蒼はペットボトルの水を一口飲んだ。

そのとき。

「蒼ー!」

グラウンドの方から太陽の声が飛んできた。

蒼が顔を上げる。

太陽がフェンス越しに手を振っていた。

「先帰ってていいぞ!」

「俺らまだミーティングあるから!」

蒼は軽く手を上げて答える。

「おう!」

「ナイスバッティング!」

太陽は笑いながらグラブを振った。

それからベンチの方へ戻っていく。

蒼は立ち上がった。

「じゃあ俺もそろそろ帰ります」

紗夜も立ち上がる。

「私も」

二人はスタンドの階段をゆっくり降りていく。

少しだけ沈黙が続いた。

グラウンドの歓声も、もう遠い。

スタジアムの外へ出ると、少しひんやりした風が吹いていた。

蒼が言う。

「今日はありがとうございました」

「野球の話、楽しかったです」

紗夜は小さく笑う。

「こっちこそ」

「久しぶりにあんな真剣に試合見たかも」

少し歩いたところで、紗夜が足を止めた。

「私、こっち」

駐車場の方を指す。

蒼は頷いた。

「じゃあ」

「また大学で会うかもしれませんね」

紗夜は少し驚いた顔をする。

「……あ、そっか」

「同じ大学だもんね」

そして、ふっと笑った。

「そのときは、また野球の話付き合ってよ」

蒼も少し笑う。

「もちろん」

紗夜は軽く手を振った。

「じゃあね、蒼くん」

そう言って歩き出す。

蒼はその背中を少しだけ見送ってから、駅の方へ歩き出した。

夕方の空は少しずつ色を変え、グラウンドの照明がぽつぽつと灯り始めている。

紗夜は数歩進んでから、ふと立ち止まった。

振り返る。

蒼の背中は、もう少し遠くなっていた。

紗夜は小さく息を吐く。

「……柏木蒼、か」

二年前。

秋大会のマウンドに立っていた投手。

あのときのピッチングは、今でもはっきり覚えている。

そして今日。

その本人が、隣で普通に試合を見ていた。

紗夜は少しだけ口元を緩めた。

「……面白い人」

そのときだった。

「おーい!」

突然、後ろから声が飛んできた。

紗夜が顔を上げる。

少し離れた場所で、蒼がこちらを振り返っていた。

蒼は口元に手を当て、大きな声で言う。

「もしまた投げられるようになったら!」

紗夜は驚いたように目を見開く。

蒼は続けて叫んだ。

「そのときは̶̶」

「一番最初に、あなたに俺のピッチング見てもらいたい!」

グラウンドの向こうから吹いてくる風の中で、その声ははっきりと届いた。

紗夜は一瞬、言葉を失う。

胸が、どくんと強く鳴った。

思いもよらない言葉だった。

蒼はそれだけ言うと、少し照れくさそうに手を振り、そのまま駅の方へ歩いていく。

紗夜はしばらくその背中を見つめていた。

そして小さく呟く。

「……ほんと」

少し笑う。

「面白い人」

その頬は、ほんの少しだけ赤くなっていた

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