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59 野球は好き?
隣では、紗夜がペットボトルのキャップを開けている。
少し沈黙が流れた。
遠くでは、選手たちの笑い声や金属バットの音が聞こえる。
紗夜が口を開いた。
「ねえ」
蒼が顔を向ける。
「なんですか?」
紗夜は少し考えるようにしてから言った。
「きみさ」
「今でも、野球は好き?」
突然の質問だった。
蒼は少しだけ言葉に詰まる。
視線をグラウンドへ向けた。
マウンド。
白線。
さっきまで試合をしていた場所。
蒼は小さく息を吐く。
それから、少しだけ笑った。
「……まあ」
「嫌いにはなれないですね」
紗夜はその答えを聞いて、小さく頷いた。
「やっぱり」
そのままグラウンドを見つめる。
少し風が吹き、ネットがカサッと揺れた。
紗夜は蒼を横目でちらりと見る。
そして静かに思った。
(この人――)
(まだ、野球の中にいる)




