58 野球ってやっぱいいよね
黒崎 小夜 (くろさき さよ)
試合終了のコールが響く。
インコースの真っ直ぐに、四番バッターのバットは空を切った。
「ストライク!バッターアウト!」
審判の声がグラウンドに響く。
京葉大のベンチが一気に盛り上がった。
スコアは 1-0。
京葉大の勝利だった。
グラウンドでは両校の選手たちが整列する。
「ありがとうございました!」
声を揃えて礼をする姿を、蒼はスタンドから静かに見つめていた。
その隣で、小夜がふっと息を吐く。
「いい試合だったね」
「ですね」
蒼も小さく頷いた。
少しすると、選手たちがベンチへ戻り始める。
その中で、太陽がバックネット裏のスタンドの方を見上げた。
蒼と目が合う。
太陽は軽くグラブを振ってみせた。
蒼も小さく手を振り返す。
太陽はチームメイトに何か声をかけてから、スタンドの方へ歩いてきた。
フェンス越しに声をかける。
「どうだった?」
蒼は笑った。
「ナイスバッティングだったな」
「インコース、よく振り抜いたじゃん」
太陽は少し照れくさそうに笑う。
「まあな」
そして、蒼の隣に座っている女性に視線を向けた。
一瞬だけ、少し驚いたような顔になる。
蒼が言った。
「さっき隣で試合見ててさ」
「めちゃくちゃ野球詳しい人」
太陽は軽く頭を下げる。
「どうも」
すると女性が先に口を開いた。
「黒崎紗夜です」
落ち着いた声だった。
「京葉大の二年」
蒼は少し驚く。
(あ、同じ大学なんだ)
太陽も頷いた。
「岡本太陽です」
「京葉大一年」
紗夜は太陽の方を見て、ふと聞いた。
「最初の打席」
「インコース狙ってた?」
太陽は少し驚く。
「……分かります?」
紗夜は頷いた。
「打ち方見てたらね」
「最初からあそこ振りにいってたでしょ」
太陽は苦笑する。
「いやー、そこまで見てる人なかなかいないですよ」
蒼は横で笑った。
「言っただろ」
「この人、めちゃくちゃ野球詳しいんだって」
紗夜は少し肩をすくめた。
「だってさ」
「いい試合だったし」
そう言って、もう一度グラウンドを見る。
夕方の光の中、選手たちが後片付けをしていた。
紗夜は静かに言った。
「野球って、やっぱりいいよね」
試合の片付けが始まり、グラウンドにはまださっきまでの熱気が残っていた。
太陽はベンチの方に呼ばれ、軽く手を上げてから戻っていく。
蒼はスタンドの席に座ったまま、グラウンドをぼんやり眺めていた。




