50 大切にするね
レストランを出た後、二人は館内をゆっくりと回った。午後の柔らかな光が差し込む中、会話が
途切れることはなかった。昼食時の少し踏み込んだ会話を経て、二人の間にはこれまで以上に自
然で、どこか親密な空気が流れていた。
出口付近にある広々としたお土産コーナーに立ち寄ると、凛は吸い寄せられるようにぬいぐるみ
の棚へと歩み寄った。
「わぁ、ぬいぐるみがいっぱい……!」
目を輝かせるその姿を、蒼は少し後ろから穏やかな表情で見守る。
「さっき見た本物のペンギンも可愛かったけど、こっちはまた別格だな」
凛はそう言って、手のひらサイズの小さなペンギンのストラップを手に取った。それは、先ほど
話した「一生を添い遂げるペンギンのつがい」をイメージしたのか、二羽が寄り添っているデザ
インだった。
「それ、さっきのペンギンの話のやつか?」
蒼が隣から覗き込むと、凛は少し照れたようにはにかんだ。
「あ、バレた?..ねえ、蒼くん。これ、千尋ちゃんへのお土産にしようかな。あの子、こういう
の好きだし」
「村上さんに?あいつ、俺たちを二人きりにした張本人だろ」
蒼が苦笑しながら言うと、凛も「それあはそうなんだけど...」と笑い合った。
凛が千尋へのプレゼントを選んでいる間、蒼はふと、その隣に並んでいたシンプルなイルカの
チャームに目を留めた。青いクリスタルが埋め込まれたそれは、どこか今日の水族館の光景を思
い出させるような、落ち着いた輝きを放っていた。
「..凛」
蒼が呼び直すと、凛は「あ」と小さく声を漏らし、嬉しそうに振り返った。
「これ、今日の記念。..誘ってくれたお礼だ」
蒼がチャームを差し出すと、凛は一瞬だけ目を丸くして固まった。受け取った手のひらの上で、
青いイルカがキラリと光る。
「え、いいの...?私、自分の分は買うつもりなかったのに」
「似合いそうだと思っただけだ」
蒼が少し照れくさそうに視線を逸らすと、凛はチャームをぎゅっと握りしめた。その頬は、店内の
明るい照明の下でもはっきりと分かるほど赤く染まっていく。
「..ありがとう。大切にするね、蒼くん」
そう言って見せた凛の笑顔は、今日見たどの展示よりも眩しく、蒼の胸を小さく跳ねさせた。




