49 お昼
水族館を一通り見て回ったあと、二人は館内のレストランに入った。
案内されたのは窓際の席だった。
大きなガラスの向こうには海が広がっている。
「わぁ……」
凛が窓の外を見ながら声を漏らす。
「海、綺麗だね」
蒼もちらっと外を見る。
「ほんとだな」
昼の光を受けて、海はきらきらと輝いていた。
しばらくして料理が運ばれてくる。
蒼はカツカレー。
凛はオムライスを頼んでいた。
「いただきます」
「いただきます」
二人は向かい合って食べ始める。
少しして、凛のスマホが震えた。
画面を見ると、LINEが届いている。
千尋:
デート楽しんでるー?笑
凛は思わず笑ってしまう。
「どうしたの?」
蒼が聞く。
「千尋ちゃん」
凛はスマホを見ながら打ち込む。
凛:
すごく楽しいよ!
送信すると、凛はスマホをテーブルに置いた。
蒼が聞く。
「村上さん?」
凛は頷く。
「内緒」
蒼は苦笑する。
「なんだそれ」
凛はくすっと笑った。
しばらく二人は黙って食べる。
窓の外では、海がきらきらと光っていた。
凛はオムライスを一口食べてから、ふと蒼を見る。
少し迷うような表情をしてから口を開いた。
「高校の時さ」
蒼が顔を上げる。
「ん?」
凛は少し照れながら言う。
「彼女とか、いたの?」
蒼は一瞬だけ手を止める。
そしてカレーを一口食べてから答えた。
「まぁ……いたよ」
凛は小さく頷く。
「そっか」
そこで終わるかと思ったが、凛は少し視線を落として続けた。
「長かったの?」
蒼は少し苦笑する。
「まぁ、それなりには」
「そうなんだ」
凛は一瞬だけ窓の外の海を見る。
それからもう一度蒼を見る。
「……今は、もう何もないの?」
蒼は少し驚いたような顔をしたが、すぐに肩をすくめた。
「ないよ」
短い答えだった。
凛はその言葉を聞いて、小さく息を吐く。
そしてオムライスを見ながら、ほんの小さな声で呟いた。
「……よかった」
その声はあまりにも小さくて、蒼の耳には届かなかった。
「ん?」
蒼が顔を上げる。
凛は慌てて首を振る。
「なんでもない」
そう言ってオムライスを食べる。
けれど、耳が少し赤かった。
蒼は少し凛を見てから、カレーを一口食べる。
そしてふと思い出したように言った。
「そういえばさ」
凛が顔を上げる。
「ん?」
蒼はスプーンを持ったまま言う。
「そっちはどうなんだよ」
「え?」
「付き合ってたこととか、あんの?」
凛は一瞬だけ固まる。
それから少し視線を逸らして、照れくさそうに笑った。
「……あるよ」
蒼は少し意外そうな顔をする。
「へぇ」
凛は頬を少し赤くしながら続けた。
「高校の時に」
「同級生?」
蒼が聞くと、凛は首を振った。
「ううん、先輩」
蒼は少しだけ驚く。
「そうなんだ」
凛はオムライスをつつきながら言った。
「でも、そんな長く続かなかったけどね」
蒼は苦笑する。
「ふーん」
凛は蒼をちらっと見る。
「蒼くんは意外そうだね」
蒼は肩をすくめた。
「いや、どう考えてもモテるだろうし」
凛は少し頬を膨らませる。
「なにそれ」
蒼は少し笑う。
凛は照れたように笑った。
「蒼くんだってモテたでしょ」
蒼は軽く肩をすくめる。
「知らねーよ」
二人は顔を見合わせて、少しだけ笑った。
窓の外では海がきらきらと光っている。
水族館のレストランには、穏やかな時間が流れていた。




