38 迷い
家の前に着くと、愛菜が足を止めた。
住宅街は静かで、夜風が少しだけ涼しい。
「じゃあここでいいよ」
蒼は頷く。
「ああ。今日はありがとな」
愛菜は少し笑って、肩をすくめた。
「別に。私も楽しかったし」
少しの沈黙が流れる。
愛菜はふっと小さく息を吐いた。
「なんかさ」
蒼が顔を向ける。
「今日改めて思った」
「蒼ってやっぱモテるんだなって」
「は?」
蒼は思わず間の抜けた声を出す。
愛菜は少しだけ笑う。
「だってさ。凛ちゃん、蒼のこと結構気にしてる感じだったし」
蒼は少し視線を逸らした。
「……そんなことねーよ」
愛菜は小さく肩をすくめる。
「私さ」
少しだけ言葉を探すように間を置いてから続けた。
「もう平気だと思ってたんだけど」
夜の街灯の下で、愛菜は少しだけ困ったように笑った。
「意外とそうでもないみたい」
蒼は何も言えず、少しだけ黙る。
それを見て、愛菜はすぐにいつもの調子に戻る。
「ま、でもさ」
「凛ちゃんいい子だし」
「ちゃんと仲良くしてあげなよ」
そしてくるっと背を向ける。
玄関の前で振り返り、笑った。
「じゃあね、蒼」
蒼も小さく笑う。
「ああ。また大学で」
愛菜は家の中に入っていった。
扉が閉まる。
蒼はその場に少しだけ立ち尽くす。
夜の静かな道で、蒼はぽつりと呟いた。
「……ほんと、高校の帰り道みたいだったな」




