36 帰り
車は静かな住宅街へと入っていった。
夜もだいぶ更け、窓の外には街灯の光がゆっくりと流れていく。
「次ここだな」
太陽がハンドルを切りながら言う。
後部座席の千尋が、ちょうどそのタイミングで目を覚ました。
「ん……あれ、もう着いた?」
「お、起きたか村上さん」
太陽が軽く笑う。
千尋は目をこすりながら体を起こした。
その視線が、一瞬だけ蒼と愛菜に向く。
「ふーん……」
小さく呟くように言うと、すぐにいつもの調子に戻った。
「今日は楽しかったー!ありがとねみんな!」
ドアを開けて外に出ると、千尋は振り返って手を振る。
「凛のこと、ちゃんと送ってあげてねー」
そう言って、意味ありげに笑いながら家の方へ歩いていった。
車が再び走り出す。
少しして、今度は太陽がバックミラーを見ながら言った。
「次、新井さんの家だな」
その声で、後部座席の凛がうっすら目を開ける。
「ん……あれ……?」
「起きた?」
蒼が振り返る。
凛はまだ少し眠そうな顔で周りを見渡した。
「ごめん……寝ちゃってた……」
「相当遊んだからな今日」
蒼が笑う。
車はゆっくりと止まった。
「ここでいいよ」
凛はドアを開けて外に出る。
「今日は本当に楽しかった!またみんなで行こうね!」
そう言って笑顔を向ける。
そして一瞬だけ、蒼の方を見る。
「蒼くん、ありがとう」
少し照れたように言うと、手を振って家の方へ歩いていった。
車が再び走り出す。
残ったのは、太陽と蒼と愛菜、そして助手席で眠る三郎。
しばらく走ったあと、太陽が言った。
「蒼と愛菜、この辺だろ?」
「うん、ここで大丈夫」
車が止まる。
蒼と愛菜は車を降りた。
「今日は運転ありがとな太陽」
「気にすんな。また今度な」
蒼は助手席で眠っている三郎をちらっと見て言う。
「起きたら三郎にもお礼言っといて」
太陽は少し笑いながら頷く。
「おう、伝えとく」
車はそのままゆっくりと走り去っていった。
夜の住宅街に、二人だけが残る。
少しだけ静かな空気が流れる。
愛菜が小さく笑った。
「なんかさ……」
「ん?」
「高校の帰り道みたいだね」
蒼は少しだけ驚いたような顔をしたあと、ふっと笑う。
「確かに」
二人は並んで、ゆっくりと夜道を歩き始めた。




