35 戻ったみたい
車は静かに夜の街路を走っていた。
運転席は太陽、助手席では三郎が深く寝息を立てて眠っている。
後部座席では凛と千尋が眠っていた。
真ん中の席だけは、蒼と愛菜が並んで座っている。
蒼は少し窮屈そうに座りながら、愛菜と荷物の位置を整える。
「この箱、もう少しこっちに置いた方がいいかもな」
「うん、大丈夫。あ、でも凛ちゃんも千尋ちゃんも、本当に楽しくて良い子だね」
愛菜はちらりと後部座席の凛の寝顔を見やり、微笑む。
蒼もそれを見て、自然と笑みを浮かべた。
その会話が聞こえた瞬間、千尋は眠ったままの凛の横でそっと目を覚まし、薄目で二人のやり取
りに耳を傾ける。
荷物のバランスが崩れそうになると、蒼はさっと手を差し伸べ、愛菜が軽く体を寄せる。
「おっと、危なかったな」
「ありがとう……」
二人の間に、ほんのわずかに昔の距離感が戻ったような空気が漂う。
会話は自然に、川遊びや片付けの話題に流れるが、やがて二人は少し昔のことを思い出す。
「……そういえば、高校の頃って、こんな感じで川とか行ったよな」
「うん、覚えてる。あの時も、二人で荷物運んで、なんだかぎこちなくてさ……」
「でも、あの頃に戻ったみたいで、ちょっと懐かしいな」
凛は横で眠ったまま、千尋は薄目で二人のやり取りを聞き、そっと視線を戻す。
夜風に照らされた街灯が車窓を淡く照らし、静かな夜道を進む。
小さな沈黙の中で、今日の楽しい余韻と、川で過ごした時間、そして昔の思い出が、二人の胸に
静かに残っていった。




