25 呼び方
車内は群馬の山へ向かう道を静かに進んでいた。
外の景色が少しずつ緑に染まる中、後部座席では凛と愛菜が楽しそうに女子トークを続けてい
る。
その隙に、三郎が小声で助手席の太陽に話しかけた。
「なあ、この間……悪かったな」
「ん?」
「蒼と愛菜のこと、俺、全然知らなくてさ。愛菜が帰ったあと、追っかけて行ったじゃん。フォ
ロー入れてくれたんだろ?ありがとな」
太陽は一瞬、何か考えるように眉を寄せた。
そして落ち着いた声で答える。
「大丈夫だよ。別に、気にしてない」
三郎は小さく頷き、少しほっとした表情を見せる。
そのまま二人は軽く目配せを交わし、車内の他の声に耳を傾けた。
すると後部座席では、凛と愛菜の会話が続く。
「ねえ、この間の授業、どうだった?」
「うーん、まあまあかな。新井さんは?」
「私は楽しかったよ。先生の話、結構面白くて」
「そうなんだぁ。新井さんってほんと明るいよね」
しばらく笑いながら話したあと、凛がふと口を開く。
「そういえば、まだ“新井さん”って呼んでるよね」
「え、そ、そうだっけ……?」
「呼び方、凛でいいよ」
愛菜は少し照れたように笑った。
「じゃあ……凛ちゃんて呼ぶね」
「うん、よろしく!」
そのやり取りを、蒼は後ろでしれっと聞いていた。
窓の外を流れる景色を眺めながら、心の中でつぶやく。
俺も……名前で呼びてーな
千尋が横でニヤッと笑った。
「ねえ蒼くん、羨ましいでしょ?」
「え、何が?」
「だって凛に名前で呼ばれてるんだよ~」
「いや、別に……」
「うそー、絶対ちょっと嬉しいでしょ!」
凛と愛菜は気にせず笑い合っている。
蒼は後ろで少し照れながらも、なんだか心が温かくなるのを感じた。




