24 席決め
三郎の車は、集合場所のすぐ近くの駐車場に停めてあった。
黒いミニバンを見て、千尋が声を上げる。
「え、でか!」
「だろ?八人乗り!」
三郎が得意げに言う。
「じゃあ乗るか」
太陽がそう言いながら助手席のドアを開ける。
「俺、前でいい?」
「おう、ナビ頼むわ」
三郎が頷く。
残った四人は、後ろのドアの前で少しだけ立ち止まった。
「じゃあさ」
千尋がにやっと笑いながら言う。
「凛と蒼くん隣ね」
「えっ!?」
凛が驚きの声を上げる。
蒼も少し戸惑う。
「いや、別に……」
そのときだった。
「私、新井さんと隣がいい」
愛菜がさらっと言った。
みんな一瞬だけ愛菜を見る。
でも本人は特に気にした様子もなく続ける。
「ちょっと話してみたいし」
凛は少し驚きながらも頷いた。
「え?あ、うん……!」
結果、席はこうなった。
前列は運転席に三郎、助手席に太陽。
真ん中の席は蒼と千尋。
後部座席に凛と愛菜。
全員が乗り込むと、三郎がエンジンをかける。
「よっしゃー!GWだぞー!」
「まだ何もしてないだろ」
助手席の太陽が冷静にツッコむ。
「細けぇことはいいんだよ!」
そんなやり取りに、車内はすぐに笑い声で満たされた。
しばらくして、千尋が蒼の方をちらっと見る。
「蒼くんってさ」
「ん?」
「彼女いるの?」
蒼は深く考えずに答えた。
「いないよ」
その瞬間。
ほんの一瞬だけ、空気が止まった。
三郎、太陽、そして後ろの愛菜。
三人の間で、わずかな沈黙が落ちる。
凛だけがその空気に気づいていない。
「そうなんだ」
少し安心したような声で言う。
「えー!絶対モテそうなのに!」
千尋が大げさに言うと、三郎が笑いながら言った。
「こいつモテねーんだよ!」
「うるせー」
蒼が軽く返す。
そして千尋は、ニヤッと笑った。
「じゃあさ」
「ん?」
「凛どう?タイプ?」
「は?」
蒼は思わず間の抜けた声を出した。
「ちょっと千尋!」
凛が慌てて止める。
車内に笑いが広がる。
そのとき。
後部座席で、愛菜がほんの少しだけ顔をしかめた。
ほんの一瞬。
誰にも気づかれないくらいの、小さな変化。
̶̶だが。
助手席の太陽だけは、それに気づいていた。
太陽はバックミラー越しに後ろを見る。
愛菜はもういつもの表情に戻り、窓の外を眺めている。
太陽は何も言わない。
ただ静かに前を向いた。
蒼も後ろをチラッと見て、
……なんか、すごい席になったな
と心の中で呟く。
車は、ゴールデンウィークの賑やかな道路を走っていく。




