23 ゴールデンウィーク
村上 千尋 (むらかみ ちひろ)
集合場所の駅前に着いたとき、蒼は少し早すぎたかなと思った。
まだ朝の空気が少しひんやりしていて、人通りもまばらだ。
しばらくスマホをいじっていると、後ろから聞き慣れた声がした。
「おはよう!蒼!」
振り向くと、井口愛菜が手を軽く振りながら歩いてきていた。
いつものような明るい笑顔。
「……おう、おはよう」
蒼は少しだけ戸惑いながら返す。
この間、あんな感じで別れたのに。
̶̶怒ってると思ってたんだけどな。
でも愛菜はそんな様子はまったくなく、普通に蒼の隣に立った。
「みんなまだ?」
「うん、まだ」
そんな短いやり取りのあと、少しの沈黙が流れる。
そこへ、もう一人の足音が近づいてきた。
「おはよう」
岡本太陽だった。
「おう、太陽」
太陽は二人の様子を一瞬だけ見て、軽く頷く。
この間、愛菜を追いかけて少し話しているからか、特に気にした様子はない。
ただ、蒼の表情がほんの少しだけ固いことには気づいていた。
けれど、それには触れない。
三人で何気ない話をしていると、遠くから楽しそうな声が聞こえてきた。
「凛~!こっちで合ってる?」
「あ、うん!多分ここ!」
振り向くと、二人の女の子がこちらに歩いてくる。
一人は見慣れた顔。新井凛。
そしてその隣には、金髪ロングのギャルっぽい女の子。
近づいてくると、その金髪の子が蒼を見てにやっと笑った。
「え、凛、趣味いいじゃん」
「ちょっと千尋!」
凛が慌てて止める。
蒼は少し苦笑いするしかない。
「えっと…この子が言ってた蒼くん?」
「う、うん」
凛は少し照れながら答える。
「村上千尋!よろしく!」
「柏木蒼」
軽く挨拶を返す。
そこで凛と千尋は、太陽と愛菜に気づく。
「あ、はじめまして」
凛が少し丁寧に頭を下げる。
「新井凛です」
「村上千尋!」
太陽も軽く会釈する。
「岡本太陽です」
「井口愛菜です」
太陽が少し思い出したように言った。
「新井さんのことは知ってるよ!大学で可愛いって有名だし」
凛は少し驚いたように目を瞬かせる。
「え?」
すると千尋がすぐに笑う。
「そうそう!この子めっちゃモテるの!」
凛は恥ずかしそうに肩をすくめる。
「ちょっとやめてよ…」
蒼はそのやり取りを見ながら、ふと考える。
̶̶愛菜と凛、初めて会ったんだよな。
胸の奥に、ほんの少しだけ気まずい感覚が広がる。
愛菜は凛に向かって普通に微笑んでいた。
ただ、その瞬間ほんの一瞬だけ表情が揺れた。
でも、それに気づいた者はいなかった。
そのとき̶̶
「おー!悪い悪い!」
遠くから声が聞こえる。
振り向くと、田中三郎が手を振りながら走ってきていた。
「遅い」
蒼が言うと、三郎は笑いながら近づく。
そして千尋を見るなり、目を丸くした。
「君が千尋ちゃん?えーめっちゃ可愛いね!」
千尋は少し引きながら言う。
「え、なにこの人」
凛が苦笑する。
「三郎くんだよ」
こうして、少し騒がしい六人のゴールデンウィークが始まった。




