19 秋2
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学校を出て、二人は並んで歩き始めた。
夕焼けはもうほとんど消えて、空は少し暗くなり始めている。
しばらくの間、二人は何も話さずに歩いていた。
沈黙が続く。
でも、不思議と気まずさはなかった。
先に口を開いたのは七海だった。
「蒼先輩」
「ん?」
七海は少し前を見ながら言う。
「最近、元気ないですよね」
蒼は少し苦笑する。
「そんなことないって」
七海はすぐに言い返した。
「絶対ウソです」
蒼は少し驚く。
七海は小さく笑う。
「蒼先輩、分かりやすいんですよ」
少し間を置いて続ける。
「それに」
蒼を見る。
「最近、学校あんまり来てないでしょ?先輩」
蒼は少し視線を逸らす。
「……まあ」
七海は少しだけ真面目な顔になる。
「やっぱり」
少し沈黙が流れる。
そして七海は、少し迷うように言った。
「……あの」
「蒼先輩」
蒼は七海を見る。
「なんだ?」
七海は少し視線を逸らす。
「肩……大丈夫なんですか?」
蒼の表情が少し止まる。
七海は続ける。
「先輩、野球部辞めちゃったじゃないですか」
「監督は肩のコンディションが悪いって言ってましたけど…」
七海は少し不安そうに蒼を見た。
「もう野球、できないんですか?」
蒼はすぐには答えなかった。
少しだけ空を見上げる。
そして小さく笑う。
「さあな」
少し間を空けて言った。
「まあ……もういいんだよ」
七海は何も言えなかった。
でも、それ以上は聞かなかった。
代わりに話題を変えるように言う。
「……あの」
「蒼先輩」
蒼は七海を見る。
「なんだ?」
七海は少し緊張した顔で言った。
「最近……愛菜先輩とどうなんですか?」
その名前を聞いた瞬間。
蒼の足が、ほんの少しだけ止まりかけた。
少し考えるように視線を落とす。
そして静かに言った。
「……ああ」
「もう別れたよ」
七海の目が大きく開く。
「え……?」
思わず立ち止まる。
蒼は少し苦笑する。
「まあ、色々あってさ」
七海は何も言えない。
(別れた……?)
胸がドクンと鳴る。
でも、すぐに顔を戻した。
「そ、そうなんですか」
蒼は小さく頷く。
「まあな」
七海は少し歩きながら言った。
「……すみません」
蒼は首を傾げる。
「なんでお前が謝るんだよ」
七海は少し困ったように笑う。
「なんとなくです」
少し沈黙が流れる。
七海は前を向いたまま歩く。
(別れたんだ……)
胸の奥が少しだけ熱くなる。
でも、そんなこと思っちゃいけない。
愛菜先輩は優しくて、いい先輩だから。
七海は小さく息を吸う。
そして明るい声に戻った。
「でも蒼先輩」
蒼を見る。
「そんな暗い顔しててもダメですよ」
蒼は苦笑する。
「簡単に言うなよ」
七海はくすっと笑う。
「だって」
「蒼先輩が暗いと、なんかつまらないですもん」
蒼は少し驚いた顔をする。
七海は少し照れながら言った。
「だから、私が元気出させます」
蒼は思わず吹き出した。
「お前な」




