18 秋
鳥谷 七海 (とりたに ななみ)
秋も終わりに近づいた十一月。
冷たい風が、校庭の落ち葉を静かに揺らしていた。
放課後。
蒼は校舎を出て、いつもの帰り道を歩いていた。
気づけば、足は野球部のグラウンドの横を通る道に出る。
フェンスの向こうから、バットの音が響いていた。
「ナイスバッティング!」
「もう一本いけ!」
聞き慣れた掛け声。
蒼は思わず足を止める。
フェンス越しに、後輩たちが練習しているのが見える。
見慣れたユニフォーム。
見慣れたグラウンド。
でも――
蒼は、グラウンドの方を見ることができなかった。
小さく息を吐き、そのまま歩き出そうとする。
その時だった。
「蒼先輩!」
後ろから声が聞こえる。
振り返ると、鳥谷七海が走ってきていた。
制服の上にカーディガンを羽織り、首には薄いマフラーを巻いている。
冷たい空気の中で、白い息が少しだけこぼれた。
ポニーテールを揺らしながら、少し息を切らしている。
「やっぱり蒼先輩でした!」
七海は少し肩で息をしながら、嬉しそうに笑った。
蒼は少し驚いた顔をする。
「七海?」
七海は少し笑った。
「今、帰りですか?」
蒼は頷く。
「まあな」
七海は一瞬だけグラウンドの方を見る。
それから蒼の顔を見る。
「……帰るなら」
少し明るい声で言った。
「一緒に帰りません?蒼先輩」
蒼は少し苦笑する。
「マネージャーだろ、お前」
七海は肩をすくめる。
「今日はもう終わりです」
そして軽く笑う。
「それに、蒼先輩一人で帰らせるのも心配ですし」
蒼は小さく笑った。
「なんだよそれ」
七海はくすっと笑う。
「いいじゃないですか」
「帰りましょ、蒼先輩」
こうして二人は、学校を後にした。




