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蒼色の恋に。  作者: ひろねる


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17 涙そして別れ

六月のある日の放課後。

蒼は愛菜に声をかけた。

「愛菜」

愛菜が振り向く。

「ん?」

「今日、少し話せる?」

愛菜は少し驚いた顔をする。

「え、いいけど」

そして少し笑う。

「珍しいじゃん。蒼から誘うの」

蒼は小さく頷いた。

「……近くの公園で」

愛菜は首を傾げる。

「公園?」

「うん」

少しだけ不思議そうな顔をしながらも、愛菜は笑った。

「分かった」

「じゃあ、あとでね」

蒼はそれだけ言うと、先に歩き出した。

愛菜はその背中を見つめる。

(蒼から話って珍しいな)

少しだけ、胸の奥に小さな違和感がよぎる。

理由は分からない。

でも、ほんの少しだけ――嫌な予感がした。

それでも愛菜は首を振る。

「考えすぎか」

小さく呟き、蒼の後を追って歩き出した。

その頃の愛菜は、まだ知らなかった。

この日が――

二人の関係が終わる日になることを。

夕方の公園。

蒼はブランコに座っていた。

ゆっくりと揺れる鎖の音が、静かに響いている。

やがて、公園の入口から愛菜が歩いてきた。

「蒼」

蒼は顔を上げる。

「おう」

愛菜は蒼の前まで来て、隣のブランコに座った。

「どうしたの?」

少し笑いながら言う。

「なんか真面目な感じじゃん」

蒼はすぐに答えなかった。

ブランコが、ゆっくり揺れる。

しばらくして愛菜が口を開いた。

「ねえ」

蒼を見る。

「最近、私のこと避けてるでしょ?」

蒼は少し視線を逸らす。

「そんなこと…」

愛菜は首を振る。

「あるよ」

少し寂しそうに笑った。

「学校もあんまり来ないし」

「会ってもすぐどっか行くし」

少し間を置く。

「私、なんかした?」

蒼は何も言えない。

夕方の風が静かに吹く。

愛菜は続けた。

「それに」

「最近、元気ないじゃん」

蒼は下を向いた。

言葉が出てこない。

胸の奥が重くなる。

しばらく沈黙が続いた。

そして蒼はゆっくり口を開く。

「愛菜」

「ん?」

蒼は視線を落としたまま言った。

「……俺たち、別れよう」

その瞬間。

愛菜の目が大きく見開かれる。

「……え?」

一瞬、言葉の意味が理解できないような顔をする。

「ちょっと待って」

愛菜はブランコから立ち上がる。

「どういうこと?」

蒼は顔を上げない。

「なんで急にそんなこと言うの?」

声が少し震えていた。

「私、何かした?」

蒼は首を振る。

「違う」

「じゃあなんで?」

沈黙が落ちる。

蒼はゆっくり口を開いた。

「肩のことがあってさ」

愛菜は少し驚く。

「太陽から聞いたよ」

「肩の調子悪いんでしょ?」

蒼は小さく頷く。

「だから」

「今は野球に集中したい」

自分でも、嘘だと分かっていた。

でも、それしか言えなかった。

「迷惑かけたくないんだ」

愛菜はすぐに首を振る。

「そんなの理由にならないよ」

涙が少しだけ目に浮かぶ。

「私、迷惑なんて思ってないよ」

蒼は何も言えない。

愛菜は蒼の制服の袖を、そっと掴んだ。

「蒼」

その声は少し震えていた。

「嫌だよ」

蒼の胸が強く締めつけられる。

それでも、蒼は言った。

「……ごめん」

短い言葉だった。

愛菜の手が、ゆっくり離れる。

涙が静かに頬を伝った。

蒼はその顔を見ることができなかった。

本当の理由を言えば、きっとこの子は離れない。

それが分かっていた。

だからこそ、言えなかった。

蒼はゆっくり立ち上がる。

「じゃあ……」

それ以上の言葉は出なかった。

蒼はそのまま歩き出す。

背中越しに、愛菜の声が聞こえた。

「蒼……」

蒼は振り返らなかった。

振り返れば、全部崩れてしまう気がしたからだ。

夕方の公園に、ブランコの揺れる音だけが静かに響いていた。

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