16 遠のく距離
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それからの二日間、蒼は学校を休んだ。
朝、目は覚める。
でも体を起こす気力が湧かなかった。
天井をぼんやり見つめる。
頭の中に浮かぶのは、あの日の試合だった。
最後の一球。
肩に走った激痛。
そして、センターを越えていった白球。
目を閉じても、その光景が何度も蘇る。
スマホが何度か震えていた。
でも、画面を見る気にはなれなかった。
三日目。
蒼はようやく学校に来た。
教室のドアを開けると、いつものざわめきが耳に入る。
何も変わらない日常。
でも、自分だけがそこから取り残されたような気がした。
席に座ると、すぐに愛菜が近づいてきた。
「蒼」
蒼は少しだけ顔を上げる。
愛菜は腕を組みながら、少し笑って言った。
「なに、二日も学校休んでたの?」
軽くからかうような口調だった。
「蒼がサボるとか珍しくない?」
蒼は少し視線を逸らす。
「……まあ、ちょっとな」
愛菜は不思議そうな顔をする。
「風邪?」
「いや、別に」
「じゃあ何?」
蒼は答えない。
愛菜は少しだけ頬を膨らませた。
「なにそれ」
そして、小さく笑う。
「蒼が学校サボるとか、初めて見たんだけど」
いつもなら、蒼も笑い返していた。
でも、その日は違った。
蒼はただ小さく言った。
「……悪い」
その声は、どこか重かった。
愛菜は一瞬だけ黙る。
そして首をかしげた。
「……蒼?」
その時、チャイムが鳴った。
蒼は何も言わず、前を向く。
愛菜は少しだけ不安そうな顔をしたまま、自分の席へ戻っていった。
蒼は机の上を見つめる。
拳をぎゅっと握った。
――言えない。
肩を壊したなんて。
野球が終わるかもしれないなんて。
そして何より、
愛菜の顔を見るたびに、胸が締めつけられた。




