15 崩壊
数日後。
肩の違和感が消えない蒼は、顧問に言われて整骨院で診てもらうことになった。
診察室の中は、妙に静かだった。
レントゲンを見つめる医者の表情が、少しだけ曇る。
その沈黙が、やけに長く感じた。
やがて医者はゆっくりと口を開く。
「柏木くん……正直に言うね」
その一言で、嫌な予感が胸をよぎる。
「これは、かなり重い故障だ」
蒼は言葉を失った。
医者は続ける。
「夏の県予選には……まず間に合わないと思う」
頭の中が真っ白になる。
「それどころか、このまま投げ続けると――」
医者は少し言葉を選んだ。
「野球人生そのものに影響が出る可能性がある」
蒼はただ黙って、レントゲン写真を見つめた。
そこに映っているのは、自分の肩だった。
でも、どこがどう悪いのかなんて分からない。
ただ一つだけ分かったことがある。
――もう、今までみたいには投げられない。
整骨院を出たあと、蒼はそのまま学校へ戻った。
夕方のグラウンド。
野球部の練習はもう終わっていて、人の姿はなかった。
蒼はフェンスの前で立ち止まる。
いつも立っていたマウンドを、ただぼんやりと見つめた。
胸の奥が、ぐちゃぐちゃになる。
怒りなのか、悔しさなのか、自分でもよく分からない感情が渦巻いていた。
気づけば、目の奥が熱くなる。
蒼は何も言えなかった。
ただ、少しだけ涙がこぼれた。
誰もいないグラウンドに、静かな時間だけが流れていく。
肩を壊したのは自分だ。
チームにも迷惑をかける。
夢も、全部終わるかもしれない。
そして、ふと頭に浮かぶ。
愛菜の顔だった。
笑顔。
応援してくれる姿。
「絶対甲子園行ってね」と言ったあの日の声。
胸が、ぎゅっと締めつけられる。
蒼はゆっくりと目を閉じた。
どうしたらいいのか、もう分からなかった。




