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蒼色の恋に。  作者: ひろねる


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197/203

196 ノック

「よし、次ノックいくぞ」

宮本の声がグラウンドに響く。

一気に空気が変わる。

さっきまでのアップとは違う、少し張り詰めた空気。

「内野、つけ」

その一言で、それぞれが動き出す。

ポジションに散っていく。

蒼は少しだけ周りを見る。

(……どこだ)

そのとき——

「柏木」

宮本の声。

「……はい」

「ファースト入れ」

「……はい」

少しだけ間を置いて、走る。

ファーストの位置に立つ。

ベースを軽く踏む。

グローブをはめ直す。

(……ファーストか)

内野の他のメンバーを見る。

セカンド、ショート、サード。

動きが無駄なくて速い。

(……レベル高ぇな)

「……いいか」

宮本が全体に向かって言う。

全員の動きが一瞬止まる。

「今日は監督いないからって、手抜いたら許さねぇからな」

低く、はっきりとした声。

「一本一本、試合のつもりでやれ」

「……」

空気がさらに締まる。

「いくぞー」

ノッカーの声。

打球が飛ぶ。

まずはサード。

鋭いゴロ。

軽くさばいて、素早く送球。

「オーライ!」

蒼が声を出す。

パシッ。

ミットに収まる。

(……速っ)

次はショート。

深い位置。

一歩で入って、体勢を崩しながらも送球。

「オーライ!」

パシッ。

「……」

一球一球のスピードが違う。

判断も早い。

次の打球。

セカンド。

ゲッツーの形。

「一!」

声が飛ぶ。

蒼はベースに入る。

送球。

パシッ。

すぐに一塁ベースを踏む。

「よし!」

声が飛ぶ。

(……)

自然と体が動いている。

でも——

一瞬でも遅れたら、全部崩れる。

「次いくぞー」

打球が続く。

今度はサードの強い打球。

少しバウンドが合わない。

それでも体で止めて、すぐに送る。

「オーライ!」

蒼が声を出す。

パシッ。

なんとか捕る。

「……ナイス」

小さく声が聞こえる。

横を見ると、流夜が少しだけ笑っている。

「……」

蒼は軽く頷く。

でも——

(……まだだな)

自分でも分かる。

一つ一つがギリギリ。

余裕なんてない。

「柏木!」

宮本の声。

「……はい!」

「足動かせ!」

「遅れてるぞ!」

「……っす!」

短く返す。

次の打球。

少し前。

チャージする。

拾って、そのままベースへ。

「オーライ!」

自分で踏む。

(……よし)

一つ一つ、感覚を確かめる。

ノックが続く。

息が少しずつ上がる。

でも止まらない。

周りも、誰一人止まらない。

「ラスト!」

強い打球。

ショートへ。

深い位置。

体勢を崩しながらの送球。

「オーライ!」

蒼が声を張る。

パシッ。

しっかり捕る。

「オッケー!」

ノックが終わる。

「……はぁ」

少しだけ息を吐く。

額に汗が滲む。

「……どうよ」

流夜が横から声をかけてくる。

「……キツいっすね」

素直に言う。

流夜が笑う。

「だろ」

少しだけ間。

「でも、ついてきてるじゃん」

「……」

蒼は何も言わない。

グローブを見つめる。

(……ファーストか)

もう一度、ベースに目をやる。

ここが——

今の自分の場所。

「……」

軽く息を吐く。

(……ここで、やるしかねぇな)

静かに、そう思った。

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