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蒼色の恋に。  作者: ひろねる


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198/202

197 バッティング

「次、バッティングいくぞ」

宮本の声が飛ぶ。

全体がすぐに動き出す。

ケージが組まれて、順番にバットを持つ。

蒼も列の後ろに並ぶ。

(……木製か)

手の中でバットを軽く握る。

サークルでは金属が多かった。

この感触は、久しぶりだ。

「柏木、いけ」

順番が回ってくる。

「……はい」

バッターボックスに入る。

軽く足場を整える。

ピッチャーが構える。

(……まずは感覚だな)

初球。

ボテッ。

芯を外した鈍い音。

ボールは力なく転がる。

「……」

二球目。

振り遅れる。

ファール。

三球目。

ゴツッ。

詰まる。

「……」

周りの空気が少しだけ静かになる。

(……やっぱ違うな)

軽く息を吐く。

木製特有のしなり。

芯の狭さ。

少しでもズレると、全部持っていかれる。

四球目。

打ち損じ。

五球目。

空振り。

「……」

(……でも)

軽くバットを構え直す。

(……合わせていく)

六球目。

少しだけタイミングをずらす。

カンッ。

さっきよりはマシな当たり。

七球目。

カンッ。

ライナー性の打球。

外野へ伸びる。

「……」

(……きたな)

感覚が、少しずつ戻ってくる。

八球目。

振り抜く。

カンッ。

いい音。

打球がぐっと伸びる。

外野の頭を越える。

「おお……」

小さく声が上がる。

九球目。

同じイメージ。

カンッ。

今度はさらに強い。

フェンス直撃。

「……」

(……いける)

十球目。

踏み込む。

振り抜く。

カンッ——

乾いた音。

打球が上がる。

そのまま——

フェンスを越える。

「……おい」

誰かの声。

ざわつきが広がる。

「今の……」

「普通に越えただろ」

蒼は何も言わず、次の球を待つ。

十一球目。

カンッ。

また柵越え。

十二球目。

カンッ。

連続。

「……は?」

「なんだあいつ」

「柏木ってブランクあるんだろ?」

「打球おかしくね?」

ざわざわと声が広がる。

蒼はただ、振る。

十三球目。

カンッ。

十四球目。

カンッ。

「……」

完全に、感覚を掴んでいる。

(……これだ)

体が覚えている。

打つ感覚。

ボールを運ぶ感覚。

全てが繋がる。

「ストップ」

宮本の声。

蒼がバットを下ろす。

「……」

周りの視線が集まる。

蒼は軽く息を吐くだけ。

その横で——

流夜がニヤッと笑う。

「……やっぱすげーな」

小さく呟く。

そのまま、宮本の方を見る。

「やっぱりピッチングいいやつって、バッティングセンスありますよね」

宮本は腕を組んだまま、蒼を見ている。

「まあな」

短く答える。

少しだけ間。

「野球ほど、センスが大事なスポーツはねぇからな」

「……」

流夜が黙って聞く。

「投げる、打つ、捕る、走る」

「全部だ」

「……」

「センスあるやつは」

少しだけ視線を細める。

「なんとなくやっても、できちまう」

「……」

グラウンドに、少しだけ静けさが落ちる。

「でもな」

宮本が続ける。

「プロ行くやつらは違う」

「……」

「そのセンスに加えて」

「並大抵じゃない努力してる」

「……」

流夜が小さく頷く。

「そうっすね」

少し神妙な顔で呟く。

「……」

宮本は何も言わず、もう一度蒼を見る。

「……」

蒼はバットを軽く握り直す。

さっきの感覚が、まだ手に残っている。

でも——

(……これだけじゃ足りねぇ)

確かに、そう思った。

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