195 練習初日
翌日、土曜日。
グラウンド。
朝の空気はまだ少し冷たくて、土の匂いが強く残っている。
「……」
蒼はグラウンドの端に立っていた。
すでに何人かは来ていて、それぞれがアップを始めている。
キャッチボールの音。
バットの乾いた音。
サークルとは、明らかに違う空気。
(……やるか)
軽く息を吐く。
そのとき——
「お、早いじゃん」
後ろから声。
振り向くと、流夜が手を振りながら近づいてくる。
「……おはようございます」
蒼が軽く頭を下げる。
「おはよ」
軽いノリで返す。
「ちゃんと来たんだな」
「まあ……」
蒼が苦笑する。
「昨日入るって言ったんで」
「えらいえらい」
流夜が適当に言う。
「……」
少しだけ間。
「とりあえずアップしときな」
「宮本さん来たら始まるし」
「……はい」
蒼は軽く頷く。
そのままストレッチを始める。
周りの動きを、ちらっと見る。
一つ一つが、無駄なくて速い。
(……やっぱ違うな)
自然とそう思う。
「よし、集合」
宮本の声が響く。
一気に空気が締まる。
全員が集まる。
蒼も少し遅れて輪に入る。
「今日から新しく入るやつがいる」
宮本が言う。
視線が、蒼に集まる。
「柏木」
「……はい」
一歩前に出る。
「1年の柏木蒼です」
「よろしくお願いします」
軽く頭を下げる。
「……」
数人が頷く。
興味なさそうなやつもいる。
その中で——
流夜だけが、ニヤッと笑っている。
「まあ見ての通りだ」
宮本が続ける。
「サークル上がりだけど」
少しだけ間。
「やれるやつだと思ってる」
「……」
その一言に、少しだけ空気が変わる。
「期待はするな」
「でも手は抜くな」
「以上」
短く言う。
「アップ続けろ」
全員が動き出す。
蒼も元の位置に戻る。
「……」
少しだけ息を吐く。
(……やるしかねぇな)
そのとき——
「柏木ー」
流夜が軽く手を振る。
「キャッチボールしよーぜ」
「……はい」
グローブをはめる。
二人で少し離れる。
「どんくらい投げれる?」
流夜が聞く。
「軽くなら」
「……ふーん」
少しだけ間。
「じゃあ、軽くな」
「無理すんなよ」
「……はい」
蒼がボールを握る。
久しぶりの感覚。
肩に少しだけ意識がいく。
「……」
一球。
軽く投げる。
パシッ。
流夜のミットに収まる。
「おー」
流夜が声を上げる。
「全然いけんじゃん」
「……まあ」
蒼が少しだけ苦笑する。
「まだ怖いですけど」
「だろうな」
流夜が軽く頷く。
「でも」
少しだけ笑う。
「悪くねーよ」
「……」
もう一球。
さっきより少しだけ強く。
パシッ。
「……」
少しずつ、感覚が戻ってくる。
周りの音が、少しずつ馴染んでくる。
グラウンド。
ボールの感触。
ミットの音。
(……戻ってきてるな)
ほんの少しだけ。
でも確かに。
その感覚が、そこにあった。




