194 野球頑張りなよ
家に帰ると、部屋の中は静かだった。
バッグを置いて、ベッドに腰を下ろす。
「……ふー」
小さく息を吐く。
今日一日のことが、頭の中をゆっくり流れていく。
野球部。
宮本。
流夜。
そして——小夜の言葉。
「……」
少しだけ天井を見上げる。
ポケットからスマホを取り出す。
画面を開いて、少しだけ迷う。
「……」
連絡先を開く。
指が止まる。
でも、すぐにタップする。
呼び出し音。
数秒。
『もしもし?』
聞き慣れた声。
「……あ、澪?」
『蒼ちゃん?どしたの、急に』
少しだけ明るい声。
「いや、ちょっとさ」
ベッドに倒れ込む。
「報告」
『なにそれ』
少し笑った声。
「俺、野球部入った」
一瞬、間。
『……え?』
「大学の野球部」
『……ほんとに?』
「うん」
『……そっか』
少しだけ、優しくなる声。
『よかったじゃん』
「……まあな」
少しだけ照れたように答える。
『でもさ』
少しだけ間。
『じゃあ、春は帰ってこれない感じ?』
「……あー」
蒼が少しだけ天井を見る。
「多分、無理だな」
「練習とかもあるし」
『そっか』
少しだけ残念そうな声。
「その代わりさ」
少しだけ声のトーンを変える。
「来年の春」
「また愛菜と一緒に帰るよ」
『……』
一瞬の沈黙。
でもすぐに——
『……うん』
少しだけ明るくなる。
『待ってる』
「おう」
少しだけ間。
『じゃあさ』
澪が続ける。
『夏になったら、そっち遊び行くわ』
「……え?」
蒼が少しだけ驚く。
「マジで?」
『うん』
楽しそうに言う。
『どうせ暇だし』
「いやいや」
思わず笑う。
「急だな」
『いいじゃん別に』
少しだけ間。
『東京とかで遊びたいし』
「……」
蒼は少しだけ笑う。
「……まあ、いいけど」
『決まりね』
「はいはい」
少し軽く返す。
『じゃあ、また連絡する』
「おう」
『野球、頑張りなよ』
「……ありがと」
『じゃあね、蒼ちゃん』
通話が切れる。
「……」
スマホを見つめる。
静かな部屋。
でも——
どこか、少しだけ賑やかに感じた。




