191 黒崎流夜2
「高校のときは、ずっと控えだったんだけど」
小夜が静かに続ける。
蒼は、黙って聞く。
「流夜、さ」
少しだけカップを見ながら言う。
「別に下手だったわけじゃないんだよ」
「……」
「むしろ、普通に通用してたし」
「……はい」
「ただ」
少しだけ間。
「上に、すごいピッチャーがいた」
蒼の頭に、なんとなく情景が浮かぶ。
強豪校。
エース。
その控え。
「流夜、ああ見えてさ」
小夜が少しだけ笑う。
「めちゃくちゃ負けず嫌いで」
「……」
「でも、出れない時間の方が長くて」
「……」
「それでも、腐らなかった」
その言葉に、蒼の視線が少しだけ動く。
「……」
「ずっと準備してた」
「いつ出てもいいように」
「……」
静かに聞く。
「で、大学入ってから」
小夜が続ける。
「一気に伸びた」
「……」
「フォームも変えて」
「球速も上がって」
「今は普通にエース」
「……すごいっすね」
蒼が小さく言う。
小夜が軽く肩をすくめる。
「でしょ」
「……」
少しだけ間。
「まあ、本人は」
「やっとスタートラインに立っただけって言ってるけど」
「……」
蒼は小さく頷く。
「なんか、そんな感じはしました」
小夜が少し笑う。
「でしょ?」
少しだけ、空気が柔らかくなる。
「……」
蒼はカップに手を伸ばす。
少し考える。
「……なんか」
ぽつりと漏らす。
「俺と逆っすね」
小夜の動きが、少しだけ止まる。
「……え?」
「流夜さんは」
蒼が続ける。
「控えから上がってきて」
「今エースで」
「……」
「俺は」
少しだけ間。
「上から落ちてきた側なんで」
「……」
静かな空気。
小夜は、蒼をまっすぐ見る。
「……でもさ」
小さく言う。
「今、また上がろうとしてるじゃん」
「……」
蒼は何も言わない。
「それでいいと思うけどな」
「……」
その言葉が、静かに残る。
「……」
少しだけ息を吐く。
「……流夜さん」
蒼がぽつりと言う。
「なんか、余裕ある感じでした」
小夜が少しだけ笑う。
「でしょ?」
「うん」
蒼も頷く。
「まあ」
小夜が少しだけ視線を外す。
「昔からああいうとこあったけど」
少しだけ間。
「今は、ちゃんと結果出してる分」
「余計そう見えるのかもね」
「……」
蒼は静かに聞く。
カップの中のコーヒーが、わずかに揺れる。
「流夜ね」
小夜がぽつりと呟く。
少しだけ間。
「……あいつ、昔からさ」




