187 再び
宮本勇人 (みやもとはやと)
三月。
夕方。
バイト終わり。
裏口で軽く伸びをする。
「……ふー」
そのとき——
「おーい、蒼」
牧原の声。
「はい?」
振り向く。
「ちょっとさ」
牧原が軽く手を振る。
「バイト終わったら紹介したいやついるから」
「……え?」
「いいから来いって」
軽く言う。
「……はあ」
正直、よく分からないまま頷く。
少しして。
完全にシフトが終わる。
「行くぞ」
牧原が先に歩き出す。
「どこ行くんすか?」
「大学」
「大学……?」
少しだけ首をかしげながら、後をついていく。
大学のグラウンド。
乾いた打球音が響いている。
「ほら、あそこ」
牧原が顎で示す。
一人の男。
「宮本」
牧原が声をかける。
その男が振り向く。
「連れてきたぞ」
「……」
宮本がこちらを見る。
一瞬。
視線が合う。
「柏木」
「……はい」
「宮本勇人」
「……どうも」
少しだけ沈黙。
「サークルでやってるんだってな」
宮本が言う。
「……まあ、はい」
「見てた」
「……え?」
「この前の試合」
一瞬、言葉が詰まる。
「……あー……」
「お前」
少しだけ間。
「なんでサークルなんだ?」
「……」
答えに困る。
「別にディスってるわけじゃねぇけど」
宮本が続ける。
「レベル、合ってねぇだろ」
「……」
言い返せない。
「高校のときやってたんだろ」
「……はい」
宮本が少しだけ目を細める。
「総学だろ?」
「……」
「知ってるよ」
少しだけ間。
「良い球投げるのがいるって噂だったしな」
「……」
心臓が、少しだけ強く鳴る。
「で、なんで今サークル?」
「……」
少しだけ目を逸らす。
「……肩です」
「投げられなくなって」
短く言う。
少しだけ沈黙。
「……そっか」
宮本が小さく言う。
でも——
すぐに続ける。
「でも」
「打ってただろ」
「……」
「守ってただろ」
「……」
「やってんじゃん、普通に」
言葉が、刺さる。
「……」
「完全にやめたやつの動きじゃねぇ」
「……」
逃げ場がない。
「別に無理に来いとは言わねぇ」
宮本が言う。
「ただ」
少しだけ間。
「もったいねぇなって思っただけ」
「……」
胸の奥が、少しだけ揺れる。
「……」
「どうするかはお前次第」
それだけ言う。
「……」
グラウンドの音が響く。
少しだけ、空を見る。
(……なんでだろ)
心が、動く。
「……」
「……ちょっと考えさせてください」
小さく言う。
宮本は、特に表情を変えずに頷く。
「そうか」
短く返す。
横で牧原が軽く笑う。
「まあ、だろうな」
「……」
もう一度、グラウンドを見る。
その景色が、少しだけ違って見えた。




