184 大人になるとは
新幹線を降りる。
見慣れた駅。
少しだけ現実に戻ってきた感じがする。
改札を抜ける。
人の流れに乗りながら、二人で歩く。
「アオ」
愛菜が、小さく呼ぶ。
「ん?」
少しだけ足を止めて、蒼を見る。
「……あのさ」
声を潜める。
「このまま今日、アオの家……泊まっていい?」
「……え?」
蒼が一瞬、固まる。
「いや、その……」
愛菜は少しだけ視線を逸らす。
「……いいけど」
蒼が言う。
少しだけ戸惑いながらも。
蒼の部屋。
玄関を開ける。
「はー……」
蒼が軽く息を吐く。
「なんか一気に現実戻ってきたな」
「だね」
愛菜が小さく笑う。
「……あー腹減った」
蒼が言う。
「じゃあ、なんか作るよ」
愛菜がすぐに言う。
「いいの?」
「うん」
「じゃあ、その間シャワー浴びてくるわ」
「いってらっしゃい」
キッチン。
愛菜が手を動かす。
(なんで私……)
フライパンを握りながら、頭の中がぐるぐるする。
(別に澪ちゃんに言われたから来たわけじゃないし……)
(いや、でも……)
「……いやいや!」
小さく首を振る。
「違うし……!」
完全に一人でテンパっている。
そのとき。
「おー」
蒼が戻ってくる。
「めっちゃいい匂い」
「もうすぐできるよ」
「はやく食べよ」
二人で食卓に座る。
「うま」
蒼が言う。
「ほんと?」
「うん」
素直に頷く。
食べ終わる。
「俺、洗い物やっとくわ」
「いいの?」
「その間、シャワー浴びてきたら?」
「……うん」
少しだけ間を置いて頷く。
浴室。
シャワーの音。
(どうしよう……)
頭を抱えたくなる。
(なんであんなこと言ったの……)
(でも……)
(……だって)
心臓が、うるさい。
部屋に戻る。
蒼はベッドに横になっている。
愛菜はソファーに座る。
少しだけ距離。
「……なんかさ」
蒼が言う。
「正月って感じしないな」
「……うん」
愛菜がぎこちなく答える。
「……」
「愛菜」
蒼が少し起き上がる。
「なんかあった?」
「な、なんでもないよ!」
明らかに動揺している。
「……」
蒼が少し怪しそうに見る。
「もう寝よ」
愛菜が強引に言う。
「疲れたし」
電気を消す。
ベッド。
「おやすみ」
蒼が言う。
「おやすみ」
愛菜も答える。
でも——
眠れない。
(やばい……)
心臓がうるさい。
(バレる……)
蒼の背中を見る。
「……ねー、アオ?」
「ん?」
「私たち……付き合ってるよね?」
「そうでしょ」
「私たちもうほぼ大人だよね?」
「まあ、19だしな」
「……ならさ」
少しだけ間。
「普通ならさ……」
「……?」
「さっきからなんだよ」
蒼が少し苛立つ。
「愛菜、ずっと変だぞ?」
「だって……!」
振り返る。
「私たちもう、大人のカップルみたいなもんでしょ!」
「それなら……もういいじゃん」
「そういうこと、したって!」
涙が滲む。
「……っ」
蒼が固まる。
「……は?」
一瞬、言葉が出ない。
「……なんか」
少ししてから言う。
「澪に言われたんだろ」
「……」
愛菜の目が揺れる。
「……うん」
小さく頷く。
澪の言葉を話す。
蒼は、ため息をつく。
「……ったく」
「澪のやつ」
「……」
「じゃあさ」
愛菜が聞く。
「アオは……そういうの嫌なの?」
「いや」
蒼が少し考える。
「別にそういうことじゃないけど」
「俺も男だし」
「……」
愛菜が少しだけ笑う。
「よかった」
「アオが実は男の人が好きとかじゃなくて」
「は?」
「そんなわけねーだろ!」
「ふふ」
小さく笑う。
少しだけ空気が緩む。
「もういいから寝るぞ」
蒼が言う。
その瞬間——
愛菜が、身体を起こす。
そして——
強引に、キスする。
「……っ!?」
離れる。
真っ赤な顔のまま——
「私は……」
「アオとしたいよ?」




