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蒼色の恋に。  作者: ひろねる


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174 知らない話

「ちょっといい?」

澪が扉を少し開けたまま言う。

「いいよ」

蒼が軽く答える。

「お邪魔します」

澪が中に入る。

「……あ、すいません」

愛菜の方を見て、少しだけ頭を下げる。

「いきなり来ちゃって」

「いえ」

愛菜も軽く頭を下げる。

「大丈夫です」

「なんかさ」

澪がそのまま言う。

「久しぶりすぎて、普通に話したくなって」

「まあ、分かるけど」

蒼が少しだけ笑う。

「4年ぶりだしな」

「だよね」

澪も頷く。

「最後に会ったの、中学3年の夏だもんね」

「たしか、帰省したときだな」

「うん」

少しだけ懐かしそうに笑う。

「覚えてる?」

澪が言う。

「昔、坂のとこでさ、雪の日に滑って転んだの」

「……あー」

蒼が思い出したように笑う。

「お前めっちゃキレてたやつな」

「キレてないし」

すぐに返す。

「普通に痛かっただけ」

「いや普通にキレてた」

「キレてないって」

少しだけムキになる。

そのやり取りに、愛菜がくすっと笑う。

「仲いいですね」

ぽつりとこぼれる。

「まあ、昔からこんな感じなんで」

澪がさらっと言う。

「でもさ」

少しだけトーンが変わる。

澪が蒼を見る。

「蒼ちゃんが野球やめたって聞いたとき、ちょっとびっくりした」

「……」

蒼は少しだけ視線を逸らす。

「まあ、色々あってな」

軽く言う。

「聞いた」

澪が小さく頷く。

「肩、怪我しちゃったんでしょ?」

「……うん」

短く答える。

「そっか」

少しだけ間があく。

「なんかさ」

澪がぽつりと言う。

「蒼ちゃんってずっと野球やってるイメージだったから」

「やめたって聞いたとき、普通に心配だった」

「……」

蒼は少しだけ息を吐く。

「まあ、今はまたやってるけどな」

「え、そうなの?」

少しだけ表情が明るくなる。

「うん」

「サークルだけど」

「へぇ」

澪が頷く。

「なんかちょっと安心した」

素直に言う。

その会話を——

愛菜が静かに聞いている。

(……知らない話だ)

ふと、思う。

蒼の過去。

自分がいなかった時間。

「そうだ」

澪がふと思い出したように言う。

「今日さ」

二人を見る。

「夜、温泉行かない?」

「温泉?」

蒼が少しだけ聞き返す。

「うん」

澪が頷く。

「近くにあるじゃん、あそこ」

「……あー」

蒼が思い出したように頷く。

「たしかに」

「めっちゃあったまるよ」

さらっと言う。

「愛菜さんもどう?」

自然に視線を向ける。

「……え?」

少しだけ驚く。

「いいんですか?」

「全然」

澪が笑う。

「せっかく来てるんだし」

「どうする?」

蒼が愛菜を見る。

「……行きたい」

少しだけ考えてから、言う。

「温泉」

「じゃあ決まり」

澪が軽く言う。

部屋の空気が、少しだけ変わる。

静かで。

でも、どこか少しだけざわついたまま。

夜の約束だけが、そこに残る。

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