172 幼馴染?
藤平澪 ふじひらみお
蒼は一瞬だけ、言葉を失う。
目の前の顔を、もう一度見る。
「……」
ほんのわずかな間。
そして——
「……澪?」
少し遅れて、名前が出る。
その瞬間。
澪が、くすっと笑う。
「なにそれ」
少しだけ楽しそうに言う。
「忘れてたでしょ」
「いや……」
蒼が少しだけ顔をしかめる。
「一瞬な」
「一瞬でもアウトだから」
軽く言い返す。
そのやり取りに——
「相変わらずだねぇ」
母がくすっと笑う。
「ほんとだよ」
ばあちゃんも小さく頷く。
「この二人、昔からこんな感じでねぇ」
「やめろって」
蒼が少し呆れたように言う。
「恥ずいから」
「いいじゃん別に」
母が楽しそうに返す。
「久しぶりだな」
蒼が少しだけ笑う。
「うん」
澪も小さく頷く。
「ほんとに久しぶり」
少しだけ、視線が柔らかくなる。
「……あ」
そのとき。
澪の視線が、蒼の隣に向く。
愛菜と目が合う。
「……」
ほんの一瞬。
空気が、少しだけ止まる。
でも——
「もしかして、彼女さん?」
さらっと言う。
「……」
「はい」
愛菜が先に答える。
落ち着いた声で。
「井口愛菜です」
軽く頭を下げる。
「初めまして」
「藤平澪です」
澪も自然に返す。
「隣に住んでて」
少しだけ蒼の方を見る。
「小さい頃からよく遊んでました」
「そうそう」
母がすぐに乗る。
「こっちに帰ってくると、ほんと毎日のように一緒にいたもんね」
「やめろって」
蒼がすぐに言う。
「全部言うな」
「いいじゃん別に」
澪がくすっと笑う。
「ほんとだし」
「蒼ちゃん、全然変わってないね」
澪が軽く言う。
「そうか?」
蒼が少しだけ笑う。
「うん」
即答。
「相変わらずだなって思った」
「それ褒めてんのか?」
「どうだろ」
少しだけ意地悪に笑う。
そのやり取りを——
愛菜が、静かに見ている。
(……近いな)
ふと、そう思う。
言葉じゃなくて。
距離感が。
空気が。
でも——
すぐに、表情を戻す。
「……」
小さく、息を吐く。
「まあいいや」
澪が手を軽く叩くように言う。
「久しぶりだし、ちょっと話そうよ」
こたつの方を見る。
「いいでしょ?」
「いいけど」
蒼が軽く頷く。
「お前勝手だな」
「いつもでしょ」
さらっと返す。
そのやり取りに——
「ほんとだねぇ」
ばあちゃんが笑う。
「変わらないね」
その空気は——
懐かしくて。
でもどこか、少しだけ新しかった。




