171 蒼ちゃん
玄関の引き戸を開ける。
「ただいま」
蒼が小さく言う。
「おかえり」
奥から、少し低い声が返ってくる。
「……久しぶり」
靴を脱ぎながら、蒼が言う。
居間へと続く扉を開けると——
こたつに入っている二人の姿。
「蒼、来たか」
父がゆっくりと顔を上げる。
「おう」
軽く返す。
その隣で——
「……蒼?」
少し弱い声。
「……ばあちゃん」
蒼が近づく。
「久しぶり」
「ほんとだねぇ」
ばあちゃんが、ゆっくりと笑う。
「……どうも」
愛菜が一歩前に出て、軽く頭を下げる。
「井口愛菜です」
少しだけ緊張した声。
「お邪魔します」
「ああ」
父が頷く。
「よく来たね」
「はい」
愛菜も丁寧に返す。
ばあちゃんが、目を細める。
「可愛い子だねぇ」
「……ありがとうございます」
少しだけ照れたように笑う。
「とりあえず入れ入れ」
母が言う。
「寒いでしょ?とりあえずこたつ入りな?」
「ありがとうございます」
愛菜が小さく頭を下げる。
こたつの中。
じんわりとした暖かさが広がる。
「……あったか」
愛菜がほっとしたように呟く。
「でしょ」
母が笑う。
「外寒いもんね」
「ほんとに」
愛菜が頷く。
「大学どうだ?」
父が蒼に聞く。
「まあ普通」
「普通ってなんだ」
「ちゃんとやってるよ」
少しだけ言い直す。
「授業も出てるし、バイトもしてるし」
「へぇ」
父が軽く頷く。
「友達もいるのか?」
「いるよ」
蒼が軽く返す。
「普通に遊んだりもしてる」
「そうか」
短く頷く。
「あと」
蒼が少しだけ続ける。
「最近また野球やり始めた」
「……」
その言葉に——
父の視線がわずかに変わる。
「サークルみたいなもんだけど」
「無理はするなよ」
父が低く言う。
「分かってる」
蒼もあっさり返す。
「ちゃんと考えてやってる」
そのとき——
「ごめんくださーい」
玄関の方から、明るい声が響く。
「……あ」
母が顔を上げる。
「あ、来た来た」
立ち上がって、玄関へ向かう。
「ちょっと待ってね」
少しして——
「お邪魔しまーす」
軽い足音と一緒に、声が近づいてくる。
居間の扉が開く。
「こんにちはー」
ひょこっと顔を出す女の子。
黒髪のストレート。
雪の白さに馴染むような、柔らかい雰囲気。
「いらっしゃい」
母が笑う。
「寒かったでしょ」
「めっちゃ寒いです」
くすっと笑う。
「もう雪やばくて」
「でしょー」
女の子の視線が、自然と蒼に向く。
「蒼ちゃん、久しぶり!」
少しだけ嬉しそうに笑う。
蒼は一瞬だけ、言葉を失う。




