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蒼色の恋に。  作者: ひろねる


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171/218

170 母

駅の外。

白い雪が、静かに降り続いていた。

「……さむっ」

愛菜が肩をすくめる。

「だから言っただろ」

蒼が少し笑う。

そのとき——

「蒼ー!」

明るい声が、少し離れたところから響く。

「……あ」

蒼が顔を上げる。

手を振りながら近づいてくる女性。

「久しぶりー」

「……どうも」

蒼が軽く返す。

「相変わらずだねあんたは」

くすっと笑ってから——

その視線が、愛菜に向く。

「愛菜ちゃん、久しぶりだね」

「お久しぶりです」

愛菜が少しだけ頭を下げる。

でも、その表情はどこか嬉しそうだった。

「大きくなったねー」

「いやそんな変わってないです」

思わず笑う。

「いやいや、雰囲気がね」

母親が楽しそうに言う。

そして——

ちらっと蒼を見る。

「また付き合い始めたんだ?」

「……」

蒼が少しだけ顔をしかめる。

「そういうのいいから」

「なにがよ」

母が笑う。

「分かりやすいんだから」

「うるせーな」

少し呆れたように返す。

その横で——

愛菜が少し照れたように笑う。

「……えっと」

「また、お世話になります」

「こちらこそだよー」

母がすぐに返す。

「むしろ嬉しいくらい」

「ほら、乗って乗って」

車の方へ促す。

車の中。

暖房の効いた空間に、外の寒さが嘘みたいに消える。

「……あったか」

愛菜がほっとしたように呟く。

「でしょー」

母が笑う。

車がゆっくりと走り出す。

「そういえばさ」

母がバックミラー越しに蒼を見る。

「大学どうなの?」

「普通」

「普通ってなによ」

「普通だよ」

蒼が軽く返す。

「ちゃんと行ってるし」

「友達は?」

「いる」

「ほんとに?」

「いるって」

少しだけ面倒くさそうに言う。

そのやり取りに——

「ちゃんとやってますよ」

愛菜が横から口を挟む。

「アオ、普通に大学楽しんでますし」

「バイトもちゃんとやってますし」

「友達とも普通に仲いいですよ」

「……」

蒼が少しだけ愛菜を見る。

「なにそのフォロー」

「事実でしょ」

くすっと笑う。

「……まあ、そうだけど」

少しだけ照れたように返す。

「へぇ」

母が少しだけ安心したように笑う。

「ちゃんとしてんじゃん」

「だから言ってんだろ」

蒼が軽く返す。

「あと」

愛菜が少しだけ続ける。

「最近また野球もやり始めたんですよ」

「……」

その言葉に——

母の表情が、ほんの一瞬だけ止まる。

「……そうなの?」

声は、いつも通り。

でも——

少しだけ柔らかくなる。

「まあ、軽くですけど」

蒼が言う。

「サークルみたいな感じで」

「……そっか」

母は、静かに頷く。

バックミラー越しに、少しだけ蒼を見る。

その視線は——

ほんのわずかに、心配を含んでいた。

でも——

すぐに、元の表情に戻る。

「無茶はしないでよね」

「分かってる」

蒼もあっさり返す。

「ちゃんと考えてやってる」

「ならいいけど」

母は軽く笑う。

「ばあちゃん、どう?」

蒼がふと聞く。

「ん?」

母が少しだけ視線を戻す。

「体調」

「……まあ、落ち着いてはいるよ」

少しだけ間を置いてから言う。

「でも、無理はさせられないかなって感じ」

「そっか」

蒼が小さく頷く。

「顔見せたら、たぶん喜ぶよ」

「だろうな」

少しだけ、柔らかく言う。

「高校のときもさ」

母がふと思い出したように言う。

「二人でよく帰ってきてたよね」

「はい」

愛菜が懐かしそうに頷く。

「よくお邪魔してました」

「ほんと仲良かったよね」

「……今さらそれ言うなよ」

蒼が少し呆れたように言う。

「いいじゃん別に」

母が笑う。

「で?」

また愛菜を見る。

「こんなバカ息子で本当にいいの?」

「おい」

即ツッコミ。

「それ本人の前で言うなよ」

「事実じゃん」

「うるせぇ」

少しだけため息をつく。

そのやり取りに——

愛菜がくすっと笑う。

「大丈夫です」

はっきりと答える。

「ちゃんと分かってるので」

「なにを?」

蒼が少しだけ眉をひそめる。

「色々です」

少しだけ楽しそうに言う。

「……なんだそれ」

蒼も少しだけ笑う。

やがて——

車がゆっくりと止まる。

「着いたよ」

母が言う。

窓の外には、雪に包まれた家。

静かで、落ち着いた場所。

「……懐かしいな」

蒼が小さく呟く。

その景色を、少しだけ見つめる。

「……いいね」

ぽつりと、言う。

「だろ」

蒼も少しだけ笑う。

ドアを開ける。

冷たい空気と、白い世界。

新しい時間が——

ここから、また始まる。

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