169 新幹線
新幹線の車内。
暖房の効いた空間に、外の寒さが嘘みたいに消えていた。
「……あったか」
愛菜が小さく呟きながら、窓に少しだけ近づく。
「さっきまでめっちゃ寒かったのに」
「まあ、新幹線だしな」
蒼が少し笑う。
「でも向こう着いたら、また一気にくるぞ」
「やめてそれ」
少し顔をしかめる。
「ちょっと怖くなってきた」
「いやさすがに大丈夫だって」
蒼が軽く笑う。
「ちゃんと防寒してるし」
「ほんとに?」
「うん」
少しだけ顔を覗き込むようにして言う。
「たぶんな」
「たぶんやめて」
思わず笑う。
⸻
窓の外。
景色が少しずつ変わっていく。
建物が減り、広い空と白っぽい地面が増えていく。
「……あ」
愛菜が声を上げる。
「ちょっと白くない?」
「お、ほんとだ」
蒼も窓の外を見る。
「もう向こうは普通に積もってるな」
「すご……」
思わず、目を少しだけ輝かせる。
「なんかテンション上がる」
「さっき寒いって言ってたやつが?」
「それとこれとは別」
即答。
「まあ気持ちは分かる」
蒼が少しだけ笑う。
⸻
「……ねぇ、アオ」
「ん?」
「着いたらさ」
少しだけ前のめりになる。
「外出ていい?」
「いいけど」
蒼が軽く頷く。
「寒いぞ?」
「大丈夫!」
食い気味で返す。
「たぶん」
「だからその“たぶん”やめろって」
蒼が笑う。
⸻
やがて——
「まもなく、新青森駅」
アナウンスが流れる。
電車がゆっくりと減速していく。
「……来たな」
蒼がぽつりと呟く。
「……うん」
愛菜も、小さく頷く。
⸻
ドアが開く。
外の空気が、一気に流れ込んでくる。
「……っ」
思わず、息が止まる。
「……寒っ」
愛菜が肩をすくめる。
「だから言ったろ」
蒼が少し笑う。
でも——
その次の瞬間。
「……え」
愛菜の視線が、ゆっくりと上を向く。
空から、白いものが舞っている。
「……雪」
小さく呟く。
そのまま、少しだけ手を伸ばす。
ひらひらと舞い落ちてくるそれが、手のひらに触れる。
「……すご」
思わず、笑う。
「ほんとに降ってる」
その表情は——
さっきまでとは全然違っていた。
「……いいだろ」
蒼が少しだけ横で言う。
「うん」
はっきりと頷く。
「めっちゃいい」
くすっと笑う。
「なんかさ」
少しだけ蒼を見る。
「連れてきてくれて、ありがと」
その言葉に——
蒼は少しだけ目を細める。
「……まだ始まったばっかだろ」
軽く言う。
「これからだよ」
その言い方は、前よりずっと柔らかかった。
「……うん」
愛菜も、小さく頷く。
舞い続ける雪の中で——
二人の新しい時間が、静かに始まっていく。




