167 あの人か
12月29日。
店内には、いつもより少しだけ慌ただしい空気が流れていた。
レジには途切れなく客が並び、袋詰めの音が響く。
「いらっしゃいませー」
蒼が声を出しながら、商品を通していく。
「ありがとうございましたー」
最後の客を見送って、少しだけ息を吐く。
「……ふー」
「お疲れ様でーす」
横から声。
振り向くと、七海が商品を並べながら笑っていた。
「結構混んでますね」
「年末だしな」
蒼が軽く肩を回す。
「忙しいの嫌いじゃないけど、さすがにちょっと疲れます」
「顔に出てるぞ」
「出てます?」
「出てる」
即答。
「えー」
少しだけ頬を膨らませる。
そのやり取りを横で見ていた牧原が、くすっと笑う。
「お前ら、相変わらずだな」
「なにがですか」
七海が少し不満げに言う。
「別に普通ですよ」
「いや普通じゃねぇよ」
牧原が肩をすくめる。
「蒼も最近ちょっと柔らかくなったしな」
「……そうすか?」
蒼が少しだけ眉をひそめる。
「自覚ないのかよ」
「ないっすね」
「まあいいけど」
牧原は軽く笑う。
そのとき——
「おーい」
奥から声。
「そろそろ交代なー」
糸井が手を振る。
「はーい」
蒼が返事をする。
レジを離れて、バックヤードへ。
「ふー……」
軽く伸びをする。
そのまま、ロッカーにもたれかかる。
「そういえばさ」
牧原が缶コーヒーを片手に言う。
「年末どうすんの?」
「あー」
蒼が答える。
「帰ります」
「どこに?」
「青森です」
「お、実家か?」
「いや」
少しだけ首を振る。
「ばあちゃんの体調、あんま良くなくて」
「俺が大学上がってから、親も青森に引っ越したんですよ」
「それで今、向こうにいるんです」
「へぇ」
牧原が軽く頷く。
「気をつけて帰れよ」
「はい」
蒼も頷く。
「いつ戻るんだ?」
「年明け2日くらいには戻ろうかなって思ってます」
「意外と早いな」
「まあ、そんな長くもいられないんで」
「なるほどな」
その会話を、少し離れたところで聞いていた七海が口を開く。
「青森って、雪すごいんですよね?」
「らしいな」
蒼が答える。
「いいなぁ……」
少しだけ羨ましそうに言う。
「私、ちゃんとした雪ってあんまり見たことないんですよ」
「そうなのか」
「はい」
少しだけ笑う。
その様子を見ていた牧原が、ちらっと蒼を見る。
「……お前さ」
「なんすか」
「今回は一人じゃないんだろ?」
「……」
一瞬、間。
蒼は少しだけ目を逸らして——
「……まあ」
短く答える。
「へぇ」
牧原がニヤッと笑う。
「そういうことか」
「うるさいっす」
軽く流す。
そのやり取りを——
少し離れたところで聞いていた七海の手が、止まる。
「……」
視線だけ、ゆっくりと蒼に向く。
(……あ)
ほんの一瞬。
でも、はっきりと分かった。
(そっか)
小さく、息を吐く。
(……あの人か)
少しだけ、目を伏せる。
それから——
何事もなかったように手を動かす。
「……お疲れ様でーす」
いつも通りの声。
でも——
その奥にあるものだけが、少し変わっていた。




