161 覚えてる?
夕方。
空がゆっくりと暗くなっていく。
イルミネーションが、より一層輝きを増していた。
「……そろそろ帰るか」
蒼が言う。
「うん」
愛菜も小さく頷く。
楽しかった時間が、少しずつ終わっていく。
でも——
どこか、まだ終わってほしくないような空気があった。
⸻
電車に揺られる帰り道。
行きとは違って、二人とも少し静かだった。
疲れもある。
でも、それだけじゃない。
(……)
蒼は窓の外を見る。
流れていく夜の景色。
(……)
言葉は、浮かんでは消える。
⸻
最寄り駅。
電車を降りる。
冷たい空気が、また二人を包む。
「
……さむ」
愛菜が肩をすくめる。
「だな」
蒼も軽く息を吐く。
改札を抜ける。
そのまま、歩き出す。
どちらからでもなく。
自然と。
⸻
見慣れた道。
でも、今日だけは少し違って見える。
街のあちこちに、イルミネーションが灯っていた。
「
……」
愛菜が、ふと足を止める。
蒼も、それに気づいて止まる。
視線の先。
そこには——
光に包まれた、あの場所。
2年前のクリスマス。
二人で来た、思い出の場所。
「……ここ」
愛菜が小さく呟く。
「……覚えてる?」
振り向かずに言う。
「……ああ」
蒼は短く答える。
それだけで、十分だった。
二人はゆっくりと近づく。
光の中に入る。
周りには、同じように足を止めている人たち。
でも——
その中でも、この場所だけは少し違って感じた。
(……)
あのときのことが、自然と浮かぶ。
言葉もなく。
ただ、隣にいた時間。
「……なんか」
愛菜がぽつりと呟く。
でも、その先は言わない。
蒼も、何も言わない。
ただ——
隣に立つ。
少しだけ距離を詰める。
(……)
息を吐く。
白い息が、ゆっくりと消えていく。
そして——
「……愛菜」
静かに、名前を呼ぶ。
愛菜が、ゆっくりと振り向く。
その表情は——
少しだけ、揺れていた。




