160 クリスマス当日
クリスマス当日。
人で溢れた駅のホーム。
冬の冷たい空気の中でも、どこか浮き足立った雰囲気が広がっていた。
「……人多すぎだろ」
蒼が小さく呟く。
「クリスマスだもん」
隣で、愛菜が笑う。
「当たり前じゃん」
「いや、分かってたけどさ」
軽く肩をすくめる。
そのとき——
「……あ」
蒼の視線が止まる。
「どうしたの?」
「いや」
少しだけ目を細める。
「……似合ってるな」
「……え?」
愛菜が一瞬固まる。
「今日の服」
何気なく言う。
でも——
それは、今までより少しだけ踏み込んでいた。
「……急に何」
愛菜は少しだけ視線を逸らす。
「びっくりするんだけど」
「思っただけだって」
「そういうの、もっと普通に言ってよ」
「普通に言っただろ」
「普通じゃない」
少しだけ頬を赤くしながら言う。
蒼は小さく笑う。
「悪い悪い」
それだけのやり取り。
でも——
どこか少しだけ違う。
電車が到着する。
ドアが開き、人の流れに押されるように乗り込む。
「はぐれんなよ」
「子供じゃないって」
言いながらも、少しだけ距離が近くなる。
自然と、肩が触れる。
(……)
お互い、何も言わない。
でも——
少しだけ意識している。
⸻
テーマパークに到着すると、そこは別世界だった。
イルミネーションと音楽。
人の笑い声。
全部が、いつもより少しだけ輝いて見える。
「すげぇな」
蒼が呟く。
「でしょ?」
愛菜が少し得意げに笑う。
「久しぶりに来たけど、やっぱいいね」
「テンション上がってんじゃん」
「そりゃ上がるでしょ」
軽く笑う。
「蒼は?」
「まあ……悪くない」
「なにそれ」
「楽しいってこと」
「最初からそう言いなよ」
二人で笑う。
そのまま、自然と歩き出す。
⸻
「次、あれ乗ろうよ」
愛菜が指さす。
「……ジェットコースター?」
蒼が少しだけ顔をしかめる。
「いいじゃん、せっかく来たんだし」
「いやまあ、いいけど」
「怖いの?」
「怖くはねぇよ」
「絶対嘘じゃん」
少しだけ笑う。
「うるせぇな」
並びながら、軽く言い合う。
列は長い。
でも、不思議と苦じゃない。
順番が回ってくる。
安全バーが下りる。
「……おい」
蒼が小さく言う。
「なに?」
「結構高くね?」
「今さら?」
愛菜が笑う。
「ほら、もう始まるよ」
ガタン、と動き出す。
ゆっくりと登っていく。
「……」
「……」
カチ、カチ、カチ。
そして——
一気に落ちる。
「うおっ——!」
「きゃっ!」
風が一気に顔を打つ。
スピード。
浮く感覚。
すべてが一瞬で過ぎていく。
⸻
「……っは、やば」
蒼が息を吐く。
「めっちゃ楽しいじゃん」
愛菜が笑っている。
「いや、まあ……悪くないな」
「でしょ?」
少しだけ得意げ。
そのとき——
人混みの中で、愛菜が少しだけバランスを崩す。
「……っと」
自然に、蒼の腕を掴む。
「……あ、ごめん」
すぐに離そうとする。
でも——
一瞬だけ、間がある。
「……大丈夫か」
蒼が言う。
「うん」
少しだけ目を逸らす。
「……ありがと」
「おう」
それだけ。
でも——
その一瞬が、やけに残る。
⸻
昼過ぎ。
フードコートの一角。
二人は向かい合って座っていた。
「でも座れただけラッキーじゃない?」
「まあな」
トレーの上のハンバーガーを手に取る。
「いただきます」
「いただきまーす」
同時に言って、少しだけ笑う。
「……うま」
「でしょ?」
愛菜が少し得意げに言う。
「こういうとこって、なんだかんだ美味しいよね」
「分かる」
軽く頷く。
少しだけ間。
周りは賑やかで。
でも——
二人の間は、静かだった。
言葉は少ないのに、気まずさはない。
「蒼さ」
愛菜がふと顔を上げる。
「ポテトちょうだい」
「自分のあるだろ」
「そっちの方が美味しそう」
「気のせいだろ」
「いいから」
手を伸ばしてくる。
「おい」
少しだけ笑いながらポテトを差し出す。
「ありがと」
何気ないやり取り。
でも——
その距離は、自然すぎるくらい自然だった。
(……)
蒼は少しだけ目を細める。
何も言わない。
ただ、その時間をそのまま受け入れる。




