158 クリスマスの約束
「予定、ある?」
静かな声。
でも、はっきりしていた。
愛菜は、一瞬だけ目を瞬かせる。
「……クリスマス?」
「ああ」
短く頷く。
「……いや、特には」
少しだけ視線を逸らしながら答える。
「バイトも入れてないし」
「そっか」
蒼も小さく頷く。
少しだけ、間。
冷たい風が二人の間を通り抜ける。
「……どうしたの?」
愛菜が不思議そうに聞く。
蒼は、少しだけ考えて——
「いや」
軽く息を吐く。
「その日、空いてるならさ」
一歩だけ、踏み込む。
「一緒に出かけないか?」
「……」
愛菜の表情が、止まる。
「……え?」
「クリスマス」
続ける。
「どうせ暇なら」
少しだけ、笑う。
「どっか行こうぜ」
その言い方は、いつも通り。
でも——
どこか、少しだけ違った。
「……」
愛菜は、少しだけ下を向く。
何かを考えるように。
「……いいの?」
小さく、聞く。
「なんでだよ」
蒼はすぐに返す。
「別に普通だろ」
「……普通、ね」
愛菜は少しだけ笑う。
でも、その笑顔はどこか照れていた。
「……うん」
小さく頷く。
「いいよ」
「……おう」
蒼も短く返す。
それだけのやり取り。
でも——
その空気は、さっきまでとは少しだけ違っていた。
「どこ行く?」
愛菜が聞く。
「まだ決めてねぇ」
「えー」
少しだけ笑う。
「じゃあちゃんと考えといてよ」
「分かってるって」
「適当なのはなしだからね?」
「はいはい」
また、軽く笑う。
でも——
二人とも、どこか落ち着かない。
「……なんか」
愛菜がぽつりと呟く。
「変な感じだね」
「なにが?」
「いや、なんか」
少しだけ考えて——
「こういうの、久しぶりだなって」
「……」
蒼は、少しだけ黙る。
「……まあな」
短く答える。
それ以上は、言わない。
でも——
その一言だけで、十分だった。




