156 どうせ
昼休み。
学食は、いつも通りの賑やかさだった。
蒼は一人、少し遅れて席に座る。
トレーを置いて、軽く息を吐く。
「……あれ、蒼くんじゃん」
聞き慣れた声。
顔を上げると、千尋が立っていた。
「珍しいね、一人?」
「まあな」
蒼は軽く答える。
「座っていい?」
「どうぞ」
千尋はそのまま向かいに座る。
少しだけ間。
フォークを手に取りながら、ちらっと蒼を見る。
「最近さ」
何気ない口調。
「よく愛菜ちゃんといるよね」
「……」
蒼の手が、ほんの少し止まる。
「別に、たまたまだろ」
「ふーん」
軽く流す。
でも、そのまま続ける。
「凛から聞いたよ」
「……っ」
視線が、少しだけ揺れる。
「花火の日のこと」
「……そうか」
短く返す。
千尋は少しだけ笑う。
「凛さ」
フォークをくるっと回しながら言う。
「ちゃんと好きだったよ、蒼くんのこと」
「……」
「でもさ」
少しだけ視線を上げる。
「それでも選ばなかったんだよね」
その言葉は、軽くない。
「……」
蒼は何も言わない。
「でさ」
千尋が続ける。
「なんかさ、あの二人」
少しだけ笑う。
「ほんと似てるよね」
「……どういう意味だよ」
「自分より、相手のこと優先するところ」
「……」
言葉が出ない。
「だからさ」
千尋は少しだけ身を乗り出す。
「もういいんじゃない?」
「……は?」
「悩むの」
軽く言う。
「どうせ、もう決まってるでしょ」
「……」
蒼の視線が揺れる。
「凛じゃないよね」
一瞬。
空気が止まる。
「……」
答えは出ない。
でも——
「まあ」
千尋はすぐに引く。
「言わなくていいけどさ」
軽く笑う。
「分かってるなら、それでいいよ」
それだけ言って、立ち上がる。
「じゃ、私行くね」
「……ああ」
蒼は小さく頷く。
千尋は背を向けたまま、軽く手を振る。
「ちゃんとしなよ、蒼くん」
そのまま、人混みの中に消えていく。
「……」
蒼は、しばらく動かなかった。
(……)
さっきの言葉が、頭の中に残る。
“どうせ、もう決まってるでしょ”
(……)
自然と、息を吐く。
そして——
小さく、笑った。




