155 決めたこと
太陽の声が、ふっと遠ざかる。
——気づけば、冷たい夜の空気が頬に触れていた。
「……あのときからだよ」
太陽がぽつりと呟く。
「俺が決めたのは」
「……」
蒼は、黙って聞いている。
「お前らのこと、ちゃんと見届けるって」
少しだけ肩の力を抜く。
「だからさ」
太陽は蒼をまっすぐ見る。
「中途半端なまま進むのだけは、やめろ」
「……」
「ちゃんと決めろ」
「自分で」
その言葉は、もう怒りじゃなかった。
静かで、でも重い。
蒼は、ゆっくりと息を吐く。
「……ああ」
小さく、頷く。
少しだけ、間。
それから——
「……ありがとな」
ぽつりと、言う。
太陽は少しだけ目を細める。
「やっと分かったわ」
蒼が続ける。
「俺、ずっと逃げてた」
「……」
「でも」
視線を前に向ける。
「やっと、正直な気持ちに気づけた」
その言葉に、迷いはなかった。
静かな夜。
白い息が、ゆっくりと消えていく。
(……凛)
ふと、名前が浮かぶ。
あのときの夜。
笑っていた顔。
泣いていた顔。
全部、ちゃんと覚えてる。
でも——
(……もう)
その感情は、静かだった。
引きずるものじゃない。
残っているのは、ただの記憶。
(……ありがとう)
心の中で、そう呟く。
そして——
自然と、浮かぶ。
夕焼けの中で笑っていた顔。
隣で、何気なく話していた時間。
(……)
蒼は、少しだけ笑う。
それから——
「……決めたよ」
小さく、でもはっきりと。
太陽に向けて言う。
太陽は、その横顔を見て——
ふっと笑った。
「だろうな」
それだけだった。
でも——
それで、十分だった。




