154 慰めてよね
「……え?」
愛菜の表情が、止まったまま。
太陽は、そのまま続ける。
「俺さ」
少しだけ、視線を外す。
「中学の頃からずっと、お前のこと見てきたから」
「……」
「だから、分かるんだよ」
もう一度、視線を戻す。
「今のお前が、そんなこと本気で思ってないってことくらい」
愛菜の唇が、わずかに震える。
「……」
言い返せない。
「俺はさ」
太陽が静かに言う。
「ずっと好きだったよ」
「……」
「中学の頃から、ずっと」
その言葉に、愛菜の目が揺れる。
「……」
「だから正直」
少しだけ苦笑する。
「お前と蒼が別れたとき、ちょっと嬉しかった」
「……え」
「最低だろ?」
軽く笑う。
「……」
愛菜は何も言えない。
「でもさ」
太陽は続ける。
「それ、間違いだった」
その言葉は、はっきりしていた。
「ずっと辛そうな顔してるお前を見るのも」
一瞬、間を置く。
「自暴自棄になってる蒼を見てるのも」
少しだけ目を伏せる。
「……きつかった」
静かな声。
でも、確かに重かった。
「……」
愛菜の目に、少しずつ涙が溜まる。
「大学に上がって」
太陽が続ける。
「また、いつものお前らに戻ってさ」
「……」
「正直、すげぇ嬉しかった」
少しだけ笑う。
「ほんとに、安心した」
その言葉に、嘘はなかった。
「でも」
ゆっくりと続ける。
「それでもな」
まっすぐ見る。
「お前、まだ蒼のこと忘れられてないだろ」
「……」
今度は、否定できない。
「なんとなく、分かるんだよ」
「……」
「だからさ」
少しだけ息を吐く。
「俺は」
言葉を選ぶ。
「好きな女には、ちゃんと幸せになってほしいと思ってる」
その言葉が、まっすぐ届く。
「……」
愛菜の目から、ぽろっと涙が落ちる。
「……ありがとう」
小さく、そう言う。
涙を堪えながら。
太陽は少しだけ驚いた顔をして——
「なんだよ、ありがとうって」
軽く笑う。
「らしくねぇな」
「うるさい」
少しだけ鼻をすすりながら、愛菜も笑う。
「……でも、ありがと」
もう一度、言う。
太陽は肩をすくめる。
「まあ」
軽く言う。
「応援くらいはしてやるよ」
「……ほんと?」
「ああ」
「ちゃんと、やれよ」
その言葉に——
愛菜は、少しだけ前を向く。
「……うん」
小さく頷く。
そして——
少しだけ笑って言う。
「じゃあさ」
「ん?」
「玉砕したら」
いたずらっぽく笑う。
「ちゃんと慰めてよね」
一瞬、間。
太陽は、ふっと笑った。
「……当たり前だろ」




