153 俺が好きになったやつ
——あのとき。
ゴールデンウィークの帰り道。
夕焼けの中、愛菜は一人で歩いていた。
足取りは速い。
明らかに、苛立っている。
「……愛菜!」
後ろから声が飛ぶ。
振り返らない。
そのまま歩き続ける。
「おい、待てって!」
駆け寄ってくる足音。
やがて、横に並ぶ。
「……なんなの?」
愛菜は、不機嫌なまま言う。
視線も合わせない。
「別に、なんでもないなら放っといて」
「なんでもなくねぇだろ」
太陽が返す。
「さっきの、明らかにおかしかったぞ」
「……別に」
短く返す。
「普通だし」
「普通じゃねぇよ」
「……」
愛菜は黙る。
少しだけ歩くスピードを上げる。
太陽もそのままついてくる。
「……お前さ」
太陽が口を開く。
「まだ、蒼のこと忘れられてないんだろ?」
一瞬。
足が止まる。
「……は?」
ゆっくり振り返る。
その目は、少しだけ鋭かった。
「なに急に」
「いや、だから」
太陽は視線を外さない。
「どうなんだよ」
「……違うよ」
即答だった。
「もう、そういうのじゃないから」
「ほんとか?」
「ほんとだって」
少しだけ声が強くなる。
「もう終わったことだし」
「……」
「今は普通に友達だし」
言葉を並べる。
でも——
どこか、無理がある。
「……」
太陽は何も言わずに見ている。
その視線に、耐えきれなくなったのか——
「違うって言ってるでしょ!」
声が強くなる。
「なんでそんなこと聞くの?」
「……」
「もう、あんなやつどうでもいいし」
言葉が荒くなる。
「自分勝手で」
「勝手に抱え込んで」
「周りのことなんて全然見えてなくて」
「……」
「ほんと、最悪だよあいつ」
吐き出すように言う。
でも——
その声は、少し震えていた。
「……もう、好きとかじゃないから」
言い切る。
沈黙。
数秒。
「……愛菜」
太陽が静かに口を開く。
「そんなこと言うなよ」
「……え?」
愛菜が顔を上げる。
「俺が好きになったやつはさ」
まっすぐ、見て言う。
「そんなこと言うやつじゃねぇだろ」
「……」
その言葉に——
愛菜の表情が止まる。
「……え?」
ほんの少しだけ、目が揺れる。
今、何を言われたのか——
理解が追いついていない顔だった。




