152 中途半端
蒼の胸ぐらを掴んだまま。
太陽は、そのまま言葉を続ける。
「お前さ」
低く、押し殺した声。
「なんでそんな顔してんだよ」
「……」
蒼は何も言えない。
「もう決まってんだろ」
一歩、踏み込む。
「お前の中で、答えなんてとっくに出てんだろ」
「……っ」
言い返せない。
その通りだから。
「なのに」
力が、少しだけ強くなる。
「なんでそんな中途半端なことしてんだよ」
夜の空気が、張り詰める。
「お前が迷ってる顔してる間に」
「……」
「愛菜がどんな顔してるか、分かってんのか?」
その言葉に、蒼の視線が揺れる。
「……いつも通りだよ」
やっと出た言葉。
でも——
「それが一番きついんだよ」
太陽は即座に返す。
「……」
「お前が曖昧なままいるから」
「お前の中に、まだ何か残ってるから」
一瞬、言葉を止める。
「……あいつは、それに気づいてる」
蒼の表情が固まる。
「分かるんだよ」
太陽は続ける。
「そういうの、あいつは」
「……」
何も言えない。
「お前が思ってるより、ずっと見てるし」
「ずっと我慢してる」
その言葉は、重かった。
「……それだけじゃねぇ」
少しだけ、声が落ちる。
「愛菜だってな」
蒼の目がわずかに動く。
「自分の思いだけを一方的にお前に押し付けて」
「お前を悩ませたかもしれないって」
「……そう考えてんだよ」
「……っ」
蒼の呼吸が、わずかに乱れる。
「だからあいつは」
太陽が続ける。
「これからは、ただの友達として」
「……」
「お前のこと、ちゃんと理解できるやつでいようとしてる」
「……」
「そうやって、自分で決めてんだよ」
その言葉が、重く落ちる。
「……お前も」
少しだけ、声が低くなる。
「愛菜も」
一度、息を吐く。
「どっちも大事なんだよ」
「……」
そのまま、視線を強く向ける。
「愛菜が、どれだけ考えて」
「どれだけ悩んで」
「やっと出した答えか——分かってんのか?」
一瞬の間。
そして——
「愛菜が頑張って出した答えも」
さらに一歩、踏み込む。
「お前の行動一つで、なかったことになるんだぞ?」
「……っ」
蒼の表情が、強く揺れる。
「だから言ってんだろ」
「中途半端にすんなって」
その言葉に、迷いはなかった。
「お前が決めないと」
「誰も前に進めねぇんだよ」
夜の静けさの中で、その声だけが響く。
蒼は、何も言えない。
ただ——
受け止めるしかない。
太陽は、ゆっくりと手を離す。
「……それとな」
少しだけ、視線を逸らす。
「言っとくけど」
「……」
「俺は別に、お前だけ責めてるわけじゃねぇ」
蒼が少しだけ顔を上げる。
「俺も」
短く言う。
「ずっと見てきたからな」
「……?」
「お前ら二人のこと」
そのまま、少しだけ遠くを見る。
「高校のときも」
「その前も」
そして——
少しだけ、言葉を選ぶ。
「……ゴールデンウィークのとき」
蒼の眉がわずかに動く。
「覚えてるか?」
「あのとき」
ゆっくりと続ける。
「愛菜が怒って、途中で帰っただろ」
「……」
空気が、変わる。
「俺さ」
小さく息を吐く。
「……あのあと、追いかけただろ?」




