150 おい
夜。
バイトを終えた蒼が店の外に出ると、冷たい空気が一気に体を包んだ。
「さむっ……」
白い息が、ふわっと広がる。
「おつかれ」
少し離れた場所で、太陽が立っていた。
「おう」
蒼は軽く手を上げる。
「待ってたのか」
「まあな」
太陽はそう言って歩き出す。
蒼も隣に並ぶ。
二人で夜道を歩く。
街灯の光が、等間隔に地面を照らしていた。
「で、打ち上げの話だろ」
蒼が口を開く。
「どうするんだよ」
「来るか?」
太陽が聞く。
「まあ、行くよ」
蒼はあっさりと答える。
「せっかくだし」
「そっか」
太陽は小さく頷く。
それだけの会話。
でも、それで十分だった。
「今年は結構勝ったしな」
蒼が続ける。
「最後の試合もよかったし」
「ああ」
太陽も頷く。
「お前のホームラン、あれやばかったな」
「たまたまだって」
「いや、あれはたまたまじゃねぇよ」
軽く笑いながら言う。
「高校のとき思い出したわ」
「
……あー」
蒼も少しだけ笑う。
「懐かしいな」
「だな」
太陽が続ける。
「あの頃は毎日やってたしな」
「きつかったけどな」
「きつかったな」
少しだけ笑う。
「でも楽しかっただろ」
「
……まあな」
短く答える。
少しだけ間が空く。
足音だけが、静かに響く。
「
……なあ」
太陽が口を開く。
「ん?」
「新井さんは、もういいのか?」
その言葉に、蒼の足がほんの少しだけ止まりかける。
「
……あー」
言葉を探す。
「まあ、もういいかなって感じ」
曖昧に答える。
「
……そうか」
太陽はそれ以上何も言わない。
でも——
そのまま、蒼は続ける。
「なんかさ」
少しだけ笑う。
「自分でもよく分かんなくて」
「
……」
「前は、普通に好きだったし」
「今も、別に嫌いになったわけじゃねぇけど」
「でも、もういいかなっていうか」
言葉が、まとまらない。
「最近はさ」
少しだけ視線を前に向ける。
「愛菜と一緒にいると、普通に楽しいし」
「なんか、昔みたいな感じで」
「
……でも」
少しだけ、言葉が詰まる。
「それがどういう気持ちなのかも、よく分かんねぇし」
苦笑する。
「結局、自分でもよく分かんねぇんだよ」
そのまま、言葉が途切れる。
数秒の沈黙。
足音だけが、響く。
——その瞬間。
「おい」
太陽が低く言った。
次の瞬間——
グッ
蒼の胸ぐらが、強く掴まれる。
「
……は?」
突然のことに、蒼の視界が揺れる。
目の前にあるのは——
太陽の、真っ直ぐな視線だった




