143 やっぱり
夕焼けの中。
二人で並んで歩く。
さっきまで話していた内容の延長みたいに、会話は自然に続いていた。
「そういえばさ」
愛菜がふと思い出したように言う。
「蒼って、昔からああいうとこあったよね」
「どこだよ」
「急に打ち始めると止まらなくなるやつ」
「あー……」
蒼は少しだけ笑う。
「まあ、あるかもな」
「あるかもじゃなくて、あったよ」
愛菜はくすっと笑う。
「試合中に急にスイッチ入ってさ」
「周り見えてない感じ」
「失礼だな」
「でもさ」
愛菜が少しだけ視線を前に向ける。
「そういうとこ、好きだったよ」
一瞬だけ、空気が止まる。
「
……そうかよ」
蒼は、少しだけ視線を逸らす。
でも、嫌な感じじゃなかった。
「てか愛菜もだろ」
蒼が言う。
「何が?」
「なんかあったらすぐ顔に出るやつ」
「え、出てる?」
「出てる出てる」
「うわ最悪」
「分かりやすいから助かるけどな」
「それ褒めてないでしょ」
テンポよく言い合う。
気づけば、笑っていた。
自然に。
無理なく。
(……ほんとに)
蒼は、ふと思う。
(変わってねぇな)
隣を歩く愛菜を見る。
距離も。
空気も。
全部、あの頃と同じだった。
(……)
不思議と、頭の中は静かだった。
前なら、こういうときに浮かんでいたはずの存在がある。
花火。
夜。
あのときの言葉。
(……)
でも今は、それが浮かばない。
代わりにあるのは、隣にいるこの空気だけだった。
「なあ」
蒼が、ふと口を開く。
「ん?」
「またさ」
一瞬だけ、言葉を止める。
でも、すぐに続ける。
「こうやって帰るの、悪くねぇな」
愛菜は、少しだけ驚いたように目を瞬かせる。
それから、小さく笑った。
「
……うん」
「悪くないね」
夕焼けの光が、少しだけ柔らかくなる。
二人の歩く速度は、自然と揃っていた。
(……)
蒼は、前を向いたまま思う。
言葉にはしない。
でも
(やっぱり)




