142 一緒に帰ろっか
夕方のグラウンド。
練習が終わり、空はオレンジ色に染まっていた。
「ふー……」
蒼は軽く息を吐きながら、グローブを外す。
「今日もいい感じだったな」
隣で太陽が言う。
「まあな」
蒼は軽く肩を回す。
「体もだいぶ戻ってきたし」
二人で並んで歩きながら、グラウンドを出る。
他のメンバーたちの声が、後ろで遠ざかっていく。
「にしてもさ」
太陽がちらっと蒼を見る。
「ほんとにそのまま戻るんだな」
「何が?」
「野球」
蒼は少しだけ考えてから答える。
「
……まあ、やりたくなったからな」
「そっか」
太陽は小さく頷く。
そのとき——
「蒼」
後ろから声が飛んだ。
振り返ると、そこにいたのは——
「
……愛菜」
「おつかれ」
愛菜が軽く手を上げる。
「見てたのか?」
「ちょっとだけね」
そのまま、三人が並ぶ。
ほんの一瞬だけ、空気が止まる。
「じゃあさ」
愛菜が軽く言う。
「一緒に帰ろっか」
「おう」
蒼が頷く。
「
……あー」
そのとき、太陽が少しだけ視線を逸らした。
「悪い、俺このあと用事あるわ」
「え?」
蒼が少しだけ眉をひそめる。
「先帰ってていいよ」
太陽はいつも通りの声で言う。
「いや、別に——」
「いいから」
軽く笑って、言葉を重ねる。
「二人で帰れって」
一瞬だけ。
ほんの一瞬だけ——
太陽の表情が、少しだけ曇った。
でも、それはすぐに消える。
「じゃ、またな」
軽く手を上げて、そのまま歩き出す。
愛菜は、その背中を一瞬だけ目で追う。
何も言わない。
「
……行こっか」
「おう」
二人で歩き出す。
並んで。
自然に。
「今日、結構打ってたじゃん」
愛菜が軽く言う。
「まあな」
蒼は少しだけ笑う。
「なんかさ」
愛菜が続ける。
「昔思い出した」
蒼が少しだけ視線を向ける。
「
……あー」
少しだけ、笑う。
「確かに」
夕焼けの中。
二人の影が、並んで伸びていく。
その距離は——
少しずつ、近づいていた。




