139 自然に
昼下がりのキャンパス。
講義を終えた学生たちが、ゆるやかに行き交っていた。
蒼は片手にノートを持ちながら、いつもの道を歩いている。
ふと、前から歩いてくる人影に気づく。
「あ、愛菜」
「蒼」
自然に名前を呼び合う。
「今終わり?」
「うん、さっきまで授業」
「俺も」
軽く並んで歩き出す。
「最近どう?」
愛菜がさらっと聞く。
「普通」
蒼も同じテンポで返す。
「サークル入ったし」
「だよね」
少し笑う愛菜。
「めっちゃ目立ってたもん」
「
……この間の試合のことか?」
「うん」
蒼は少しだけ息を吐く。
「まあ、たまたまだろ」
「絶対違うでしょ」
即答。
「ホームラン二本って何」
愛菜が呆れたように笑う。
蒼も少しだけ笑う。
「
……まあ、楽しかったよ」
その一言に、愛菜の表情がほんの少しだけ柔らかくなる。
「そっか」
短く返す。
そのまま、会話は途切れない。
「てかさ」
愛菜が続ける。
「やっぱ野球やってる蒼って感じだった」
「なんだそれ」
「そのまんま」
軽く笑う。
「まあ……」
蒼は少しだけ視線を前に向ける。
「悪くなかった」
少しだけ間。
でもすぐに、また普通に戻る。
「サークルどんな感じ?」
「ゆるいよ」
「いいじゃん」
「まあな」
テンポよく会話が続く。
自然に。
無理なく。
(……ほんとに)
蒼は心の中で思う。
(戻ってるな)
「じゃあ俺こっち」
「あ、私もこの辺で」
「またな」
「うん、またね」
軽く手を上げて、別れる。
蒼は少しだけ振り返る。
(……)
胸の奥が、ほんの少しだけ動く。
でも、それは重たいものじゃなかった。
蒼は前を向く。
そのまま歩き出す。




