137 懐かしい
十月。
夏の名残が少しずつ薄れて、風にわずかな涼しさが混じり始めていた。
大学のグラウンドには、乾いた打球音が響いている。
——パシッ
「ナイスボール!」
声が飛ぶ。
蒼は一塁ベースの近くで、その様子を見ていた。
グローブをはめた手。
少しだけ汗ばんだ掌。
(……久しぶりだな)
ボールの音。
土の匂い。
全部が、懐かしい。
⸻
このサークルは、本格的な部活とは違う。
練習は月に二回。
試合も、月に二回。
それでも——
蒼にとっては、十分すぎる場所だった。
⸻
「柏木ー!」
後ろから声が飛ぶ。
振り向くと、チームメイトが手を振っていた。
「次、お前な!」
「おう」
短く返事をして、軽く肩を回す。
まだ少しだけ、違和感はある。
でも——
(……やれないわけじゃない)
バットを握る。
その感触に、少しだけ力が入る。
⸻
「いくぞー!」
ピッチャーがセットに入る。
——シュッ
ボールが来る。
蒼は軽く踏み込む。
——カンッ
鋭い打球が外野へ伸びる。
「ナイバッチ!」
周りが盛り上がる。
蒼は一塁へと走りながら、小さく息を吐いた。
⸻
ベースに立つ。
呼吸を整える。
胸の奥が、じんわりと熱い。
(……やっぱり)
少しだけ、口元が緩む。
(楽しいな)
⸻
ベンチに戻ると、誰かが肩を叩いた。
「やっぱうめぇな、お前」
「久しぶりとは思えねぇわ」
蒼は軽く笑う。
「
……まあな」
いつも通りの、軽い返し。
でも——
その内側は、少し違っていた。




