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蒼色の恋に。  作者: ひろねる


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136/155

135 投げるな

スタンド。

愛菜は、じっと蒼を見つめていた。

ホームランを打って、笑ったあの表情。

(……あのときと同じ)

高校の頃。

野球をしていたときの、蒼の笑顔。

胸が、ドクンと鳴る。

「……蒼」

小さく、名前を呟いた。

反対側のスタンド。

凛もまた、視線を外せずにいた。

(……すごい)

鼓動が、収まらない。

(……かっこいい)

その言葉が、自然と浮かぶ。

そして̶̶

試合は最終回へ。

九回裏。

スコアは̶̶4-2。

ツーアウト。

ランナー二塁、三塁。

一打同点の場面。

グラウンドの空気が、一気に張り詰める。

マウンドの投手が、息を吐く。

太陽はミットを構える。

(……内野抜かれたら終わりだ)

(同点だ)

一瞬の判断。

太陽は、インコースに構えた。

̶̶ストレート。

ピッチャーがセットから投げる。

だが̶̶

(……甘い!)

少しだけ真ん中に入った。

「まずい……!」

太陽の目が見開く。

打球は̶̶

一二塁間を抜けた。

「抜けた!」

スタンドがどよめく。

三塁ランナーがスタートを切る。

二塁ランナーも三塁を回る。

外野。

ライトが打球を処理する。

その送球に向かって̶̶

蒼がカットに入る。

「回せ!!」

ベンチから声が飛ぶ。

蒼がボールを受ける。

その瞬間̶̶

太陽が叫ぶ。

「蒼!!投げるな!!」

その声に。

スタンドの全員が反応した。

愛菜。

七海。

小夜。

凛。

一瞬だけ、息を呑む。

(……太陽)

蒼はボールを握りながら思う。

(それは無理だろ)

(俺は̶̶)

ほんの一瞬。

肩に、痛みが走る。

それでも̶̶

(今、この瞬間を楽しんでんだよ)

振りかぶることなく̶̶

全力で、投げた。

̶̶ズバンッ!!!

一直線の送球。

完璧な軌道。

太陽がそれを受ける。

「来い……!」

走り込むランナー。

̶̶バシッ

タッチ。

「アウト!!」

一瞬の静寂。

次の瞬間̶̶

「うおおおおおおおお!!!」

球場が揺れる。

試合終了。

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