12 花火と告白
夏祭りの日。
愛菜が少し照れくさそうに声をかけてきた。
「ねえ、夏祭り、一緒に行かない?」
俺は驚きつつも笑って答える。
「いいけど。屋台とか何食べるか決めてるの?」
「うーん、焼きそばとかかき氷とか……あと、かき氷は絶対私が先に選ぶんだから!」
思わず笑う。
「おお、分かったよ。負けねーからな」
夏祭りの会場は、思ったより人が多かった。
屋台の灯りがずらりと並び、焼きそばやたこ焼きの匂いが漂っている。
「すごい人だな」
「だね」
歩きながら、ふと愛菜を見る。
その時、少しだけ驚いた。
「……浴衣、似合ってるな」
愛菜が一瞬きょとんとする。
「え?」
「いや、その……普通に似合ってる」
少し照れくさくて視線を逸らす。
すると愛菜の頬がほんのり赤くなった。
「……ありがと」
少しだけ間を置いて、にやっと笑う。
「蒼って、そういうこと普通に言うんだね」
「え?」
「女の子、勘違いしちゃうよ?」
思わず言葉に詰まる。
「……愛菜だから言ったんだよ」
その言葉に、愛菜は一瞬だけ驚いた顔をする。
そしてすぐに、照れたように笑った。
「……なにそれ」
そのまま屋台の間を歩いていく。
「蒼、あれ食べたい」
愛菜が指さしたのは焼きそばの屋台だった。
「さっきかき氷食っただろ」
「焼きそばは別腹!」
「意味分かんねぇ」
そう言いながら焼きそばを買う。
二人で半分ずつ食べながら歩く。
「うまっ」
愛菜が嬉しそうに笑う。
その笑顔を見ていると、なんだか胸が温かくなる。
その時だった。
前から人の波が押し寄せてくる。
「うわ、ちょっと危ない」
思わず愛菜の腕を掴んで、自分の方に引き寄せた。
愛菜の体が、すぐ近くまで寄る。
一瞬、二人の距離が一気に近くなる。
「……大丈夫か?」
「う、うん」
愛菜の顔が少し赤い。
その時、遠くでアナウンスが聞こえる。
「まもなく花火大会が始まりまーす」
愛菜が空を見上げる。
「蒼、花火見に行こ」
「おう」
人混みから少し離れた場所へ歩き出す。
花火が夜空に大きく広がる。
浴衣姿の愛菜は、いつもより少し大人っぽく見えた。
二人で並んで空を見上げる。
花火の光が広がるたび、愛菜の横顔が明るく照らされる。
その横顔を見ていると、胸の奥がじんわり熱くなった。
その時だった。
愛菜がゆっくりと俺の方を見る。
「……蒼」
少しだけ震えた声。
「私、ずっと好きだったの」
一瞬、頭が真っ白になる。
でも、不思議と驚きはなかった。
たぶん俺も、ずっと同じ気持ちだったからだ。
俺は小さく息を吐く。
「……俺さ」
愛菜の目をまっすぐ見る。
「気づいたら、いつも愛菜のこと目で追ってた」
夜空にまた花火が広がる。
「だからさ」
「俺と、付き合ってくれない?」
少しの沈黙。
そして、愛菜が小さく頷いた。
「……うん」
その声は花火の音に紛れるくらい小さかったけれど、はっきりと聞こえた。
胸の奥が一気に熱くなる。
俺は思わず笑ってしまう。
「そっか」
少し照れくさくて、何を言えばいいのか分からない。
二人の間に、少しだけ沈黙が流れる。
その時だった。
袖が、軽く引っ張られる。
見ると、愛菜が俺の制服の袖をそっとつまんでいた。
「……蒼」
恥ずかしそうに目を逸らしたまま、小さく言う。
「ちゃんと、幸せにしてよね」
少しだけ間を置いてから続けた。
「……どっか、もうちょっと歩こ」
花火の光が夜空に広がる。
俺は少し笑って頷いた。
「任せとけ」
袖をつまんだままの愛菜の隣を、二人でゆっくり歩き出す。
夜空に上がる花火の下で、
俺たちは初めて、恋人になった。




