128 二打席目
蒼の先制ホームランで、試合は1-0。
グラウンドの空気は、明らかに変わっていた。
相手ベンチも、先ほどまでの余裕は消えている。
「……マジで打ちやがった」
ベンチで太陽が小さく呟く。
蒼は何も言わず、グローブをいじっていた。
(……)
胸の奥が、まだ少しだけ熱い。
でも、それを表に出すことはなかった。
⸻
試合はそのまま進み、五回。
ワンアウト、ランナーなし。
四番の太陽が放った打球は、鋭く外野を抜けていく。
打球はそのままフェンス際まで転がり̶̶
太陽はそのまま二塁へ滑り込んだ。
「ツーベース!」
「ナイバッチ!」
ベンチが盛り上がる。
続く五番が倒れて、ツーアウト二塁。
そして̶̶
六番の蒼に、二打席目が回ってきた。
蒼はゆっくりとバッターボックスへ向かう。
(……)
ふと、視線を感じる。
スタンドの方へ目を向ける。
「……」
そこにいたのは̶̶愛菜。
少し離れた場所で、じっとこちらを見ている。
一瞬だけ、目が合う。
(……見てる)
ほんのわずかに、表情が動く。
⸻
その様子に気づいた七海が、隣の小夜に小声で言う。
「……あれ、愛菜先輩ですよね?」
小夜は視線を向ける。
「……ええ」
静かに頷く。
七海は少しだけ考えてから、手を振る。
「愛菜せんぱーい!」
愛菜が驚いたように顔を上げる。
少し迷ってから̶̶
小さく手を振り返す。
「こっち来ます?」
七海が声をかける。
少し間。
そして̶̶
愛菜はゆっくりと歩み寄ってきた。
⸻
「……どうも」
少しだけぎこちない声。
「お疲れ様です!」
七海が明るく返す。
その空気を見て、小夜も軽く会釈する。
「こんにちは」
落ち着いた声。
そのとき̶̶
「おーい!」
別方向から声。
三郎が手を振りながら近づいてくる。
「お前らも来てたのか!」
「三郎さん!」
七海が笑う。
「なんか全員集合ですね」
三郎は笑いながら言う。
「つーか蒼やばすぎだろ!」
興奮気味。
「さっきのホームラン何だよあれ!」
⸻
四人は並んでグラウンドを見る。
バッターボックスには、蒼。
その背中を見ながら̶̶
小夜がぽつりと呟く。
「……ここは多分、歩かされるね」
三人が一斉に小夜を見る。
「え?」
七海が首をかしげる。
小夜は静かに続ける。
「一塁空いてるし」
「さっきホームラン打ってるから、勝負するメリットがない」
冷静な分析。
三郎が目を丸くする。
「小夜さん、めっちゃ野球詳しいっすよね!」
小夜は少しだけ笑う。
「まあね」




