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127 たまたまだろ
七海は目を見開いたまま固まっていた。
「……やば」
ぽつりと呟く。
隣の小夜は̶̶
少しだけ口元を緩める。
「……ふふ」
「やっぱりね」
小さく呟く。
その目は、どこか嬉しそうだった。
⸻
少し離れた場所。
愛菜もまた、言葉を失っていた。
「……なに、あれ」
小さく呟く。
胸の奥が、ざわつく。
(……やっぱり)
視線が、離れない。
⸻
蒼はゆっくりと一塁へ走る。
表情は、変わらない。
でも̶̶
(……)
少しだけ、胸が熱い。
ホームを踏む。
ベンチに戻る。
周りが騒いでいる。
「おい柏木!何だ今の!?」
「マジでやべぇって!」
「お前サークルじゃねぇだろ!」
蒼は軽く肩をすくめる。
「……たまたまだろ」
そっけなく言う。
でも̶̶
その目は、どこか違っていた。
⸻
スタンド。
七海が勢いよく立ち上がる。
「やばいやばいやばい!!」
完全にテンションが上がっている。
「蒼先輩すごすぎるって!!」
小夜は静かに立ち上がる。
「だから言ったでしょ」
少しだけ笑う。
「ちゃんと見ないとって」
⸻
グラウンドでは、試合が再開される。
でも̶̶
空気は、もう変わっていた。




